魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
*−*−*


 新しい馬車に乗ると、カイルはまた椅子代わりになってくれた。
 さすがに朝からは眠くなくて、カイルに抱っこされたまま、馬車の窓から外を眺める。
 道の両側を枯れ色の草が覆い、少し先には緩やかな丘があって、ポツポツと緑の低木が生えている。
 ひたすら同じ光景が続き、変化があるとしたら、緑が濃くなるかどうか。
 それでも、町から出たことのない私には新鮮で、じっと見つめる。
 そのうち、丘に柵が現れて、ポツポツと白いものが見えた。

「カイル、羊よ! いっぱいいる! 初めて見たわ!」

 絵でしか見たことがなかった羊を見て、興奮して声をあげてしまった。

「そうですね」

 カイルは無感動な瞳で、でも、なぜか食い入るように羊を見ていた。
 犬の本能で追いかけたくなっているのかしら?

 放牧地に続く小さな村を抜け、次の町で休憩をとり、その次の町で馬車は停まった。
 馬車から降りると、凝り固まった体を伸ばす。
 ずっと振動を感じていたので、地面に立っていても、まだ揺れているような気がした。 

「今日はここに泊まりましょう」

 宿屋の前でオランが言った。
 ようやくベッドで寝られると喜んだ。
 
 中に入ると、カウンターでオランが主人に部屋はあるか聞いた。

「私たちは同じ部屋でいいわよ」

 カイルに腕を絡ませ、主張する。
 オランがギョッとしているけど、私は構わず、宿の主人にお願いした。

「夫婦用の部屋がいいの。実は私たち駆け落ちしてきたのよ」
「おやおや、そうなのかい?」

 にこやかに返してくれた主人に微笑みかける。

「そう。だから、私たちを探している人がいても内緒にしてね」
「わかったよ。まかしておけ」

 軽く請け負ってくれた主人の案内で夫婦部屋に通される。
 オランはなにか言いたげだったけど、余計な騒ぎを起こしたくないようで、黙っていた。
 一人部屋を所望したオランも別の部屋に案内されていった。


 
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