魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
ファカル村
「夕方には師匠の森に着きますよ」
「本当!?」
「正確には森のそばのファカル村に、ですが」
出発前にオランが言い、私は勢い込んで聞き返した。
近寄りすぎたみたいで、オランが後ずさりして、答えてくれた。
彼の説明によると、今日はファカルに泊まり、森に馬車は入れないから、そこからは歩いていくらしい。
(いよいよ、魔女さんに治してもらえるのね!)
あれから疫病が蔓延したところを通りかかることはなかったけれど、自分の無力さにずっと心が重かった。
(魅了を抑えてもらったら、絶対にあの町に寄ってもらって、みんなを治すんだ!)
今はそう思うしかない。
今日も馬車に乗り、目的の村へとひたすら駆ける。
窓の外の風景は、だんだん緑が濃くなり、遠く霞んでいた山もずいぶん近くなった。生えている木々がくっきり見えるくらいに。
(こんなに山を近くに見るのは初めてだわ)
大きな壁のようにそびえ立つ山々を見上げて、自然の畏怖を感じる。
山から森が続いていて、そこが魔女のいる森だと思われた。
夕焼けが空を染めるころ、ファカル村に着いた。
村の中を馬車で進んでいくと、「オラン!」「おかえり〜」「ひさしぶりね!」と歓迎する声が聞こえた。
オランは村の人々と顔なじみのようだ。
それぞれに挨拶を返す彼の声も聞こえる。
ところどころ苔の生えた石造りの壁にオレンジ色の屋根の家、家畜小屋がぽつりぽつり点在していて、のどかそうな村だった。
石碑のある中央広場までの道を馬車はゆっくり進んでいく。
魔女の森の入り口はこの村を通り過ぎて、三十分ぐらいのところだとオランが言っていた。
馬車の中から見たときにはもう少し近いと思っていたけど、実際に歩くとそこそこの距離がある。
広場を過ぎてすぐに宿屋の看板が見えた。
私たちは村で唯一という宿屋に入った。
「エニータ、久しぶりだね」
「オラン! また会えてうれしいわ」
カウンターに立っている女の子に親しげに話しかけたオランは、今まで見た中で一番の笑顔だった。
「二部屋空いてるかい?」
「えぇ、残念ながら空いてるわ。がらがらなの」
女の子は鼻にしわを寄せて笑った。
そんなしぐさもかわいいチャーミングな子だった。
そんな彼女に追手を懸念してか、オランが聞いた。
「最近、あやしい宿泊者とかいなかった?」
「あやしい? なにそれ。特にいないかなぁ。たまに、隣国の人っぽいお客さんは来るけど」
「隣国って、ダルシーナ?」
「うん。なんか仕事でこの近くで野宿することが多いから、たまにはベッドで寝たくなって、こっそり来てるんだって。あとうちの料理が美味しいって」
「そう……」
「しばらく来てないけどね」
隣国って聞くだけであやしいって思っちゃうけど、得意げに笑う彼女にオランはなにも言わなかった。
その後、部屋に案内されて、夕食をとる。
料理を作っているのは彼女のお父さんで、確かに味付けが抜群によくて美味しかった。
特に、兎肉にベリーソースをかけたものが絶品だった。
ご飯が終わるとカイルと部屋に戻る。
ここの宿屋は女の子がいるからか、机にちょっとした花が飾ってあったり、ベッドカバーやカーテンがパステルブルーで白いリボンが縫いつけてあったりと可愛らしかった。
私たちはお風呂に入って、明日に備えて、早めにベッドに入った。
「明日ようやく魔女さんに会えるね。どんな人かしら? 怖い人じゃないといいな」
「オランさんの師匠だから、大丈夫じゃないでしょうか。どちらにしても俺がついています」
「ふふっ、心強いわ」
私は顔をカイルの胸にすり寄せた。
背中には彼の腕の温もりを感じている。
疫病の町からずっと、カイルは私を抱きしめて寝てくれている。おかげで、私は安心して眠りにつける。
(カイルは本当に優しい。好き)
「おやすみ、カイル」
「おやすみなさいませ、アイリ様。よい夢を」
髪をなでられる感触にうっとりしながら、私は目を閉じた。
「本当!?」
「正確には森のそばのファカル村に、ですが」
出発前にオランが言い、私は勢い込んで聞き返した。
近寄りすぎたみたいで、オランが後ずさりして、答えてくれた。
彼の説明によると、今日はファカルに泊まり、森に馬車は入れないから、そこからは歩いていくらしい。
(いよいよ、魔女さんに治してもらえるのね!)
あれから疫病が蔓延したところを通りかかることはなかったけれど、自分の無力さにずっと心が重かった。
(魅了を抑えてもらったら、絶対にあの町に寄ってもらって、みんなを治すんだ!)
今はそう思うしかない。
今日も馬車に乗り、目的の村へとひたすら駆ける。
窓の外の風景は、だんだん緑が濃くなり、遠く霞んでいた山もずいぶん近くなった。生えている木々がくっきり見えるくらいに。
(こんなに山を近くに見るのは初めてだわ)
大きな壁のようにそびえ立つ山々を見上げて、自然の畏怖を感じる。
山から森が続いていて、そこが魔女のいる森だと思われた。
夕焼けが空を染めるころ、ファカル村に着いた。
村の中を馬車で進んでいくと、「オラン!」「おかえり〜」「ひさしぶりね!」と歓迎する声が聞こえた。
オランは村の人々と顔なじみのようだ。
それぞれに挨拶を返す彼の声も聞こえる。
ところどころ苔の生えた石造りの壁にオレンジ色の屋根の家、家畜小屋がぽつりぽつり点在していて、のどかそうな村だった。
石碑のある中央広場までの道を馬車はゆっくり進んでいく。
魔女の森の入り口はこの村を通り過ぎて、三十分ぐらいのところだとオランが言っていた。
馬車の中から見たときにはもう少し近いと思っていたけど、実際に歩くとそこそこの距離がある。
広場を過ぎてすぐに宿屋の看板が見えた。
私たちは村で唯一という宿屋に入った。
「エニータ、久しぶりだね」
「オラン! また会えてうれしいわ」
カウンターに立っている女の子に親しげに話しかけたオランは、今まで見た中で一番の笑顔だった。
「二部屋空いてるかい?」
「えぇ、残念ながら空いてるわ。がらがらなの」
女の子は鼻にしわを寄せて笑った。
そんなしぐさもかわいいチャーミングな子だった。
そんな彼女に追手を懸念してか、オランが聞いた。
「最近、あやしい宿泊者とかいなかった?」
「あやしい? なにそれ。特にいないかなぁ。たまに、隣国の人っぽいお客さんは来るけど」
「隣国って、ダルシーナ?」
「うん。なんか仕事でこの近くで野宿することが多いから、たまにはベッドで寝たくなって、こっそり来てるんだって。あとうちの料理が美味しいって」
「そう……」
「しばらく来てないけどね」
隣国って聞くだけであやしいって思っちゃうけど、得意げに笑う彼女にオランはなにも言わなかった。
その後、部屋に案内されて、夕食をとる。
料理を作っているのは彼女のお父さんで、確かに味付けが抜群によくて美味しかった。
特に、兎肉にベリーソースをかけたものが絶品だった。
ご飯が終わるとカイルと部屋に戻る。
ここの宿屋は女の子がいるからか、机にちょっとした花が飾ってあったり、ベッドカバーやカーテンがパステルブルーで白いリボンが縫いつけてあったりと可愛らしかった。
私たちはお風呂に入って、明日に備えて、早めにベッドに入った。
「明日ようやく魔女さんに会えるね。どんな人かしら? 怖い人じゃないといいな」
「オランさんの師匠だから、大丈夫じゃないでしょうか。どちらにしても俺がついています」
「ふふっ、心強いわ」
私は顔をカイルの胸にすり寄せた。
背中には彼の腕の温もりを感じている。
疫病の町からずっと、カイルは私を抱きしめて寝てくれている。おかげで、私は安心して眠りにつける。
(カイルは本当に優しい。好き)
「おやすみ、カイル」
「おやすみなさいませ、アイリ様。よい夢を」
髪をなでられる感触にうっとりしながら、私は目を閉じた。