魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
そんな俺をよそに、アイリ様は身を起こそうとする。
「そろそろ起きよっか? あれ?」
「どうされたのですか?」
「体が動かない!」
「えぇーー!?」
慌てて抱き起こすと、アイリ様は確かめるように、腕を動かした。
「上半身は動くけど、腰から下が動かないわ」
サーッと血の気の引いた俺は、アイリ様を抱き上げ、隣のオランの部屋をノックした。
でも、応答がない。
(食堂か?)
階段を駆け下り、食堂に駆け込むと、朝食をとっているオランがいた。
「オランさん! 大変です! アイリ様の脚が動かないそうなんです! すぐ医者に……」
俺が焦っているのに、オランはパンにバターを塗りながら、胡乱げにこっちを見た。
「……ただのヤりすぎでしょ」
「はっ?」
「だから〜、あんなにヤってたら、そりゃ、腰も抜けるでしょう。放っておけば、そのうち治りますよ」
オランが顔をしかめた。
どうやら隣の部屋に丸聞こえだったらしい。
アイリ様が真っ赤になって、俺の胸に顔をうずめた。
可愛い。
「まぁ、それは置いといて、魅了は治まったようですね」
「本当?」
オランが淡々と言うと、アイリ様がガバッと顔をあげて、聞き返した。
「そうですね。いつもの圧を感じません。試しに浄化魔法を使ってみてください」
「ここで?」
「浄化魔法は害はありませんから、ここでいいんじゃないですか?」
「わかったわ」
うなずいたアイリ様は手を伸ばして集中するように目を眇めると、「浄化!」と唱えた。
パァァァッ
辺りが清涼な白い光に満たされたかと思うと、すぐそれは収束した。
今までアイリ様が浄化魔法を使われたときはこんなふうな光は出なかった。
「すごい威力ですね……」
いつもは冷静なオランが目を瞬かせている。
突然の光に居合わせた人たちは驚いていたが、食堂の隅でゴホゴホ咳をしてつらそうだったおじさんが「あれ、咳が出なくなった!?」とびっくりしていた。
「元の力を取り戻したようですね」
「うん、よかったぁ」
アイリ様がほぅっと表情を緩めた。
そこに、宿の女の子が息せき切ってやってきた。
「オラン! 昨日あやしい人いなかったか聞かれたわよね? いたのよ! なぜか今、突然思い出して……」
「あやしい人?」
「そう! 隣国の人っぽいお客さんがいるって言ったでしょ? その人が最後に来たときに、いきなり違う人がここに乗り込んできて、その人を引きずるように連れて行ったのよ! なんでそんなことを忘れてたんだろう?」
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。
「その人はどんな人でしたか?」
「う〜ん、黒尽くめで、顔も布で覆っていたから、よく見えなかったの。とびきりあやしいよね? なのに、今まで思い出さなかったの」
同じようなことが王宮でも学校でも起きていた。
あやしいのに認識できないやつがいた。
「浄化魔法が効いたということは、呪いのたぐいですね」
「あやしいね。エブリア様に報告したほうがいいかしら?」
「そうですね」
俺たちの雰囲気が変わったのを見て、女の子はキョトンとしていた。
「魅了が治まったなら、早く王都へ戻らなくては。エブリア様がお待ちです」
「そうだね。ご飯を食べたら出発する?」
「そうしましょう」
アイリ様とオランの間で話が決まったようなので、俺はアイリ様を椅子に座らせて、朝食の用意をしてもらった。
「そろそろ起きよっか? あれ?」
「どうされたのですか?」
「体が動かない!」
「えぇーー!?」
慌てて抱き起こすと、アイリ様は確かめるように、腕を動かした。
「上半身は動くけど、腰から下が動かないわ」
サーッと血の気の引いた俺は、アイリ様を抱き上げ、隣のオランの部屋をノックした。
でも、応答がない。
(食堂か?)
階段を駆け下り、食堂に駆け込むと、朝食をとっているオランがいた。
「オランさん! 大変です! アイリ様の脚が動かないそうなんです! すぐ医者に……」
俺が焦っているのに、オランはパンにバターを塗りながら、胡乱げにこっちを見た。
「……ただのヤりすぎでしょ」
「はっ?」
「だから〜、あんなにヤってたら、そりゃ、腰も抜けるでしょう。放っておけば、そのうち治りますよ」
オランが顔をしかめた。
どうやら隣の部屋に丸聞こえだったらしい。
アイリ様が真っ赤になって、俺の胸に顔をうずめた。
可愛い。
「まぁ、それは置いといて、魅了は治まったようですね」
「本当?」
オランが淡々と言うと、アイリ様がガバッと顔をあげて、聞き返した。
「そうですね。いつもの圧を感じません。試しに浄化魔法を使ってみてください」
「ここで?」
「浄化魔法は害はありませんから、ここでいいんじゃないですか?」
「わかったわ」
うなずいたアイリ様は手を伸ばして集中するように目を眇めると、「浄化!」と唱えた。
パァァァッ
辺りが清涼な白い光に満たされたかと思うと、すぐそれは収束した。
今までアイリ様が浄化魔法を使われたときはこんなふうな光は出なかった。
「すごい威力ですね……」
いつもは冷静なオランが目を瞬かせている。
突然の光に居合わせた人たちは驚いていたが、食堂の隅でゴホゴホ咳をしてつらそうだったおじさんが「あれ、咳が出なくなった!?」とびっくりしていた。
「元の力を取り戻したようですね」
「うん、よかったぁ」
アイリ様がほぅっと表情を緩めた。
そこに、宿の女の子が息せき切ってやってきた。
「オラン! 昨日あやしい人いなかったか聞かれたわよね? いたのよ! なぜか今、突然思い出して……」
「あやしい人?」
「そう! 隣国の人っぽいお客さんがいるって言ったでしょ? その人が最後に来たときに、いきなり違う人がここに乗り込んできて、その人を引きずるように連れて行ったのよ! なんでそんなことを忘れてたんだろう?」
その言葉に俺たちは顔を見合わせた。
「その人はどんな人でしたか?」
「う〜ん、黒尽くめで、顔も布で覆っていたから、よく見えなかったの。とびきりあやしいよね? なのに、今まで思い出さなかったの」
同じようなことが王宮でも学校でも起きていた。
あやしいのに認識できないやつがいた。
「浄化魔法が効いたということは、呪いのたぐいですね」
「あやしいね。エブリア様に報告したほうがいいかしら?」
「そうですね」
俺たちの雰囲気が変わったのを見て、女の子はキョトンとしていた。
「魅了が治まったなら、早く王都へ戻らなくては。エブリア様がお待ちです」
「そうだね。ご飯を食べたら出発する?」
「そうしましょう」
アイリ様とオランの間で話が決まったようなので、俺はアイリ様を椅子に座らせて、朝食の用意をしてもらった。