魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「あなた方は行きもずっとそうしていたのですか?」

 魅了が治まったので、アイリ様から離れる必要のなくなったオランが馬車の中に一緒に乗ることになった。
 アイリ様を膝に乗せている俺をオランが呆れたように見る。
 
「そうですが、なにか?」
「そうですか……。これは御者台にいたほうがましかもしれませんね」

 オランが額に手を当てる。
 行きと体勢は同じだが、恋人同士になった俺たちは、より距離が近い。
 アイリ様はぺとっと俺の胸に抱きついていて、ときどき顔をあげて、にっこりする。
 可愛い。


 車内はしばらく沈黙が続いたが、ふとアイリ様が意を決したようにオランに話しかけた。
 
「そういえば、オラン。早く王都に戻らないといけないのはわかっているのだけど、なるべく疫病の流行っている町を通ってほしいの」 

 案の定、オランが渋い顔をする。
 彼が口を開く前に、アイリ様が続けた。
 
「王宮の状態も早くなんとかしないといけないのはわかってるの。だから、通りすがりの町だけでいいの。ちょこっと寄ってもらえるだけで浄化できるから。お願い!」

 一刻も争う病状の者もいるだろう。お優しいアイリ様はそれを懸念しているのだ。
 人のために下げなくてもいい頭を下げられるアイリ様は素敵だ。

 援護しようとしたら、先にオランが答えた。

「仕方ないですね。町を出るときに浄化してください。騒ぎになる前にそのまま立ち去りますからね」
「わかったわ。オラン、ありがとう」

 アイリ様がパアッと顔を輝かせる。その可愛らしさにオランも「いや、私はなにも……」としどろもどろになった。

(気持ちはわかるが、アイリ様は俺のものだからな)

 抱きしめる腕に力を入れると、アイリ様は不思議そうな顔をされた。
 



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