魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 馬を替えながら、最短距離で、各地を回って、王都へ戻ってきたときには三ヶ月が経っていた。
 常に移動していたので、王都の様子はわからず、カイルの具合もまったくわからなかった。
 事情を知っているユーリが慰めてくれた。
 ない便りはいい便りだと思って、頑張った。

 でも、この旅もようやく終わる。
 カイルにようやく会える。
 王都の門をくぐると、王宮まではすぐだ。

「エイノス様、オラン、ユーリ、長い旅にお付き合いくださり、ありがとうございました」
「いいえ、聖女様もお疲れ様でした。おかげで、どれだけの民が助かったことか! 僭越ながら国を代表して感謝申し上げます。また、今さらですが、校内での無作法を深くお詫びいたします」

 私がお礼を言うと、反対にエイノス様から頭を下げられて、慌てて首を横に振った。

「そんな! 私は当然のことをしただけですし、学校でのことは私の魅了が発端で、エイノス様はなにも悪くありません」
「やはり聖女様は寛大ですね。己の未熟さを感じます」

 武骨様はやっぱり武骨で誠実な方だった。



 王宮に着くと、エブリア様と王太子殿下が出迎えてくれた。早馬の知らせで私たちの到着をご存知だったようだ。

「ただいま帰りました」
「ご苦労だった」
「よくやってくれました」

 スカートを摘んで挨拶すると、お二人はそれぞれねぎらいの言葉をくれた。

「ありがとうございます。それで、早速で申し訳ありませんが、カイルは……」
「ごめんなさい。その前に式典があるから、準備してほしいの」

 エブリア様は私の言葉を遮り、有無を言わさない調子でおっしゃった。
 カイルに会わせてくれないなんて、なにかあったのかしら……。
 不安になり、エブリア様を見つめる。

「でも……」
「カイルは大丈夫よ。だから、早く支度をしてきてちょうだい」

 いつになく強引なエブリア様に、納得いかないまま、メイドさんに引き渡されて、湯浴みをさせられた。
 
(カイルが無事なら、どうして出迎えてくれないんだろう?)

 もしかしてまだ動けないとか? でも、エブリア様は大丈夫だって言っていたわよね。
 他の人を好きになっちゃってたら、どうしよう?
 看病してもらっているうちに、その人が好きになってしまうなんて、あり得るわよね……。
 カイルは素敵だから、モテるだろうし、いろんな人からアタックされていたかもしれない。

 メイドさんに支度をしてもらいながら、嫌な考えが頭の中をぐるぐる回った。
< 73 / 79 >

この作品をシェア

pagetop