魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「さぁ、できましたよ。とてもお美しいです」

 メイドさんに言われて鏡を見ると、白からピンクのグラデーションの素敵なドレスを身にまとった私がいた。
 パール光沢の胸元は繊細なレースが飾られ、キュッと締まったウエストからは、ふわふわの布を何枚も重ねたスカートが広がる。それは、私の髪の色味を中心に、様々なピンク色を使ってあって、自分で言うのもなんだけど、とても似合っていた。
 顔も普段しない化粧をほどこされていて、目はくっきり、カサカサしていた唇はぷるぷるになっている。
 いつもより大人っぽいかしら。
 こんな綺麗なドレスを着たことがなくて、テンションがあがってくる。

(カイルに見せたい! もしかして、カイルがエスコートしてくれるのかな?)

 そう期待したけれど、迎えに来たのは護衛の騎士で、がっかりする。
 騎士に案内されて、謁見の間に通される。
 そこには、ずらりと貴族が並び、入ってきた私に視線が集中した。

(怖い……)

 いつもなら、カイルの背中に隠れるところだった。
 でも、彼はいない。
 注目の中、なぜか広間のど真ん中に案内される。
 戸惑っていると、陛下の御成りと声がかかり、膝をつき、顔を伏せて待った。

 目の前の王座に陛下が腰を下ろす。

「聖女アイリよ。顔をあげてよい」

 そう言われて顔をあげると、一時期は毎日拝謁していた陛下が微笑んでいた。あのときよりも理知的な表情に、ほっとする。

「このたびは疫病を沈静化するという大業、まことにご苦労であった。報奨として、聖女アイリ・ラウーヤに、直轄領からスクルーナ地方を与える」 
 
 貴族たちがどよめいた。
 私だって、びっくりだわ。
 スクルーナ地方は温暖で豊かな土地だと聞く。それを私に?
 驚くのはそれだけではなかった。

「ラウーヤ男爵、前に」

 今度は宰相閣下がお父様を呼び出した。
 お父様もいらっしゃっていたんだ。
 
 おずおずとお父様が出てきた。

「貴様は操られていたとはいえ、貴族を謀り、利益を得ていた。聖女の顔を立て、咎めはせぬが、爵位を娘のアイリ嬢に譲るといい」
「なっ!」

 お父様はなにか言いたげに口もとを震わせたけど、宰相閣下からギロリと睨まれて、口をつぐんだ。
 さすがエブリア様のお父様は迫力があった。
 私も声をあげたかった。
 男爵なんて無理ですと。
 でも、怖くて、とても口を挟めなかった。

「ラウーヤ元男爵、戻ってよい」

 ケルヴィン公爵がそっけなく言うと、お父様は肩を落として戻っていった。

「続いて、叙爵式に移る」

 まだあるの!?

 でも、もう私は関係ないわよね?
 うろたえて周りを見回したら、にっこり笑っているエブリア様と目が合った。

(エブリア様! 助けてください!)

 目で訴えたのに、エブリア様は扇子でそこにいろと指し示した。

(えぇー!)

 泣きそうになっていると、次の宰相閣下の言葉にハッとした。

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