魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「まぁ、いいわ。それでは、あなたの方からはスウェイン様にアプローチしていないってことね」
「もちろんです」
「それなら、今の状況をあなたはどう思う?」

 思ってもみなかった方向の質問に移り、私はまた目をしばたいた。
 
(信じてくれたの?)

 それに、意見を求められるとは思わなかった。
 エブリア様は笑みを湛えたまま、私の答えを待っている。髪に負けずに赤い唇が色っぽい。

「俊秀だと言われる王太子殿下がエブリア様という素敵な婚約者がいらっしゃるのに、人目もはばからず、私にかまわれているのはおかしいかなと……」

 日頃から思っていたそのままをうっかり口にしてしまう。
 すると、クワっと目を見開いたエブリア様に激しく同意された。

「そう! そうなのよ! スウェイン様は美しく思慮深く洞察力もあって、なおかつ、お優しくて美しくて、紫水晶のような瞳はミステリアスで、銀色の髪は月光を集めたみたいに輝いていて、常に笑みをたたえた唇は魅惑的で、見惚れるほど美しくて……」

 途中からただ殿下を讚えるだけになって、エブリア様は陶酔しているかのように語った。
 
(美しいって三回言った。よっぽど殿下のことがお好きなのね)

 ぽかんと口を開けた私に気づき、エブリア様はハッと表情を改めた。

「……と言われているスウェイン様があんな行動をされるのはおかしいのよ」

 急な方向転換に、唖然とする。これでごまかしたおつもりかしら?
 迫力のある見た目に反して、実はかわいらしいお方なのかもしれない。
 そう思って、肩の力が抜けたとき、エブリア様はまた次の爆弾を投げてきた。

「それでね。やっぱりあなたのせいだと思うのよ」
「えぇっ!」

 疑いが晴れたと思ったのに、やっぱりそこに戻るんですか!
 がっくりだった。
 
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