華夏の煌き
 この王朝を開いた武王によって、男女問わず才を優遇される時代となっている。女の身であっても高官を望むこともできるのだった。ただ晶鈴には出世欲は皆無だった。

「ああそうだ、さきほど慶明様がいらしたのですが、占い中とお伝えしておきました」
「そう。なにか用事があったのかしら?」
「いえ、通りがかりだそうです」
「そっか。慶明は忙しいのかしらね」
「籠にたくさんの薬草を摘まれてました」
「また何か新しい薬が出来上がるかしら」

 時々、新薬を作り出し慶明は自分の身体で確かめているようだった。また確かめる前に晶鈴に効果の有無や害を尋ねる。彼のほうは順調に出世街道を歩いているようだった。晶鈴は周囲の人たちの願望や欲望を静観してきた。みんな何かしら目的があるようだ。決して冷めているわけではないが、常に平常心である自分は他の人と違うと感じている。その平坦さが、占い師たるゆえんであるが自己分析をすることはなかった。

6 慶明の新薬
 棗の粥を食べ終わったころ、慶明が湯気の出ている椀をもってやってきた。すらりと高い背を屈め、小屋に入ってくる。出会ったときは同じくらいの背丈の少年が、今では頭二つ分大きく、更には立派な体格を持っている。履物には慣れたようで、もう部屋に入って直ぐ脱ごうとはしなくなった。
「晶鈴。これが安全かどうかみてくれ」
 向かいに腰を下ろし、慶明は椀を差し出す。ふわっと青臭さが立ち上り、口の中に苦味を感じさせる。

「危険なものを調合しないでよね」
「しょうがない。組み合わせの相性があるのだから。人もそうだろ?」

 薬草同士でも組み合わせによっては毒になることもあり、毒草でもまた薬になることがあった。椀の中身について占うために粥の椀を春衣に下げさせ、手洗いの桶を持ってこさせる。
 手を洗い、少し気持ちを落ち着けて流雲石を並べる。

「大丈夫そうよ」
「よかった。じゃ飲んでみるか」

 椀をぐいっと傾け、一気に流し込む。

「うーん。味は今一つだなあ」

 目を細め、顔をしかめる慶明にこの薬の効能を尋ねる。

「今回の薬は心に効くものだ。暗い気持ちが明るくなるんだ」
「酒ではだめなの?」
「酒は冷めるともう気分が沈むし、体質的に飲めないと無理だろう? これは常用すると気疲れと不安症がなくなるんだ」
「へえ……」

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