華夏の煌き
絹枝が来客中で、慶明がいるのを知っていた春衣は何かあったらいけないと急いで客間に向かった。見ると慶明は診察という名目で星羅に触れていた。星羅は純粋に診察だと思っているだろうが、慶明は恐らく違う思惑があるはずだと春衣は睨んでいる。
「星羅さんはどこかお悪いんですか?」
春衣はわざと慶明に尋ねる。
「ん、いや。健康そのものだよ」
何事もないような言い方が、また春衣の神経を逆なでする。
「もうこの屋敷にはあまり来ないでしょうね。軍師見習いとしてお忙しいだろうから」
「いや、夫人に会いに来るだろう。それに健康診断のために月に一度は私の所へ来るように言ってある」
春衣はそのことを聞いて目の前が真っ暗になる。健康診断はきっと絹枝のいないときを狙うはずだ。今は胡晶鈴の娘への親切心だろうが、そのうちどうなるか分からない。慶明が星羅を我が物にすることなど薬品でも使えば赤子の手を捻ることに等しい。
春衣はまた早く次の手を打たねばと考え始めた。
49 媚薬
月も星も出ない闇夜のなか、陸家では春衣だけが起きている。主人の陸慶明をはじめ、その妻、絹枝と息子の明樹、そしてすべての使用人の食事に、以前慶明からもらった睡眠薬を入れておいた。
「あとはこれを」
小瓶をぎゅっと握りしめ、春衣は慶明の寝室に向かった。
屋敷が大きくなってから、慶明と絹枝は都合の良いことに寝室を別にしている。しかも客間をはさみ離れているので、それぞれの部屋の物音がよほど騒々しくない限り聞こえない。
皆、深い眠りについているだろうが、春衣は慎重に静かに歩く。そっと慶明の部屋に忍び込むと彼は静かに寝息を立てている。暑がりな彼は薄衣をはだけ、掛物も横にどかしてほぼ裸体のようだ。
「慶明さまったら……」
立派な医局長の彼が、無防備であどけない少年のような寝姿を見せる。しばらく見つめていると「晶鈴……」と寝言が聞こえた。
「やはりまだ晶鈴さまを……」
彼がつぶやく名前がまだ晶鈴でよかった。これが星羅だったら、春衣は烈火のごとく怒り、彼女に何をするかわからない。慶明の寝言で自分が何をしに来たか思い出す。小瓶の蓋を開け、中に太い糸を垂らす。
中には以前、慶明が作った催淫剤がはいっている。瞬間的な効果しかないこの媚薬は、まだ若かった慶明が人に頼まれて開発したものだ。
「星羅さんはどこかお悪いんですか?」
春衣はわざと慶明に尋ねる。
「ん、いや。健康そのものだよ」
何事もないような言い方が、また春衣の神経を逆なでする。
「もうこの屋敷にはあまり来ないでしょうね。軍師見習いとしてお忙しいだろうから」
「いや、夫人に会いに来るだろう。それに健康診断のために月に一度は私の所へ来るように言ってある」
春衣はそのことを聞いて目の前が真っ暗になる。健康診断はきっと絹枝のいないときを狙うはずだ。今は胡晶鈴の娘への親切心だろうが、そのうちどうなるか分からない。慶明が星羅を我が物にすることなど薬品でも使えば赤子の手を捻ることに等しい。
春衣はまた早く次の手を打たねばと考え始めた。
49 媚薬
月も星も出ない闇夜のなか、陸家では春衣だけが起きている。主人の陸慶明をはじめ、その妻、絹枝と息子の明樹、そしてすべての使用人の食事に、以前慶明からもらった睡眠薬を入れておいた。
「あとはこれを」
小瓶をぎゅっと握りしめ、春衣は慶明の寝室に向かった。
屋敷が大きくなってから、慶明と絹枝は都合の良いことに寝室を別にしている。しかも客間をはさみ離れているので、それぞれの部屋の物音がよほど騒々しくない限り聞こえない。
皆、深い眠りについているだろうが、春衣は慎重に静かに歩く。そっと慶明の部屋に忍び込むと彼は静かに寝息を立てている。暑がりな彼は薄衣をはだけ、掛物も横にどかしてほぼ裸体のようだ。
「慶明さまったら……」
立派な医局長の彼が、無防備であどけない少年のような寝姿を見せる。しばらく見つめていると「晶鈴……」と寝言が聞こえた。
「やはりまだ晶鈴さまを……」
彼がつぶやく名前がまだ晶鈴でよかった。これが星羅だったら、春衣は烈火のごとく怒り、彼女に何をするかわからない。慶明の寝言で自分が何をしに来たか思い出す。小瓶の蓋を開け、中に太い糸を垂らす。
中には以前、慶明が作った催淫剤がはいっている。瞬間的な効果しかないこの媚薬は、まだ若かった慶明が人に頼まれて開発したものだ。