華夏の煌き
 液体になっている媚薬を糸に含ませ持ち上げると、そっと慶明の唇の端のほうに触れないように置く。糸から小さな雫が垂れ始める。ほんのわずかの点々とした液体がじわじわ慶明の口の中に入っていく。根気よく春衣は慶明に媚薬を注ぎ続ける。しばらくすると慶明の息が少し荒くなってきた。身体も熱くなってきたのか、薄衣すらも脱いでしまう。

「ん、晶、鈴……」

 睡眠薬と媚薬が良い塩梅で効果を発揮している。春衣は小瓶の蓋を閉め、立ち上がり自分の衣をすべて脱いだ。そしてそのまま慶明の寝台に上がり慶明と肌を合わせる。

「慶明、私よ。晶鈴よ」

 春衣は晶鈴の声色をまねて慶明に囁く。目を閉じたまま慶明は「ああ、晶鈴……」とつぶやき春衣を抱きしめ続けた。



 まだ暗い中、目覚めた慶明は、身体に圧迫を感じて、そちらへ目を向けた。隣に眠る春衣を認めて息をのむ。

「こ、これは一体……」

 春衣は一枚の薄い着物でよく眠っている。そっと身体を起こし呼吸を整え、昨晩のことを思い返してみる。食事をしたあと部屋に戻り、眠気を感じたので早々に床にはいったところまでは覚えている。

「晶鈴……」

 晶鈴に対して思いを遂げた夢を見た気がする。

「まさか春衣を……」

 春衣を抱いてしまったのかどうかは、はっきり自覚を持てなかった。頭を抱えていると春衣がもぞもぞと起きだした。

「だんなさま……」

 身体を起こし春衣は慶明にすり寄ってくる。

「わ、わたしは……」

 どういえばわからない慶明に春衣は落ち着いた声で答える。

「だんなさま。わたしは晶鈴さまの代わりでも平気です」
「……。責任はとる……」
「だんなさまぁ。うれしゅうございます」

 粘り気のある声で春衣はささやき、慶明の背中にしなだれかかる。慶明は、絹枝ではなく晶鈴に対して謝罪したい気持ちになっていた。

50 側室
 たまには健康診断を受けるようにと、星羅は医局長の陸慶明に言われていたので数か月ぶりに陸家を訪れる。軍師見習いとして学んでいることや、献策について絹枝にも報告がてらだった。
 脈を測る慶明は久しぶりに会うと何やら表情は暗く元気がない様子だった。

「おじさま、なんだかお疲れね」
「いや、そんなことないさ」
「薬師の不養生じゃないかしら」
「ははは。これは星羅に言われてしまったな」

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