華夏の煌き
 王太子という身分を与えられた曹隆明と違い、彼らは自らの手で道を作り歩こうとしているのだ。最後にかるく見習いたちのいる部屋を覗く。一人の青年が地図を指さし、古代の分裂していた時代のことを熱心に話している。見習いたちは、過去の戦乱、戦略をシミュレーションして戦略を立てているのだ。振り返った青年を見て隆明は立ちすくむ。

「しょ、晶鈴……」

 青年は晶鈴によく似ている。北西出身の側室、周茉莉よりもずっと似ている。じっと青年を見つめる隆明に、申陽菜は「殿下、どうなされたのですか? あの青年が何か?」と尋ねた。

「あ、い、いや。知り合いに似ていたので」
「そうですか。声でもおかけになります?」
「いや、討論中のようだしやめておこう」

 案内役である、軍師助手の男に隆明は三人の名前を尋ねる。神経質そうな軍師助手は「左のものが徐忠正、右のものが郭蒼樹。立っているのが朱星雷です。今回最高の成績のものです」
「そうか」

 朱星雷と口の中でつぶやくが、胡晶鈴とはまるで結びつかない。他人の空似でも、ここまで晶鈴に似ていると隆明はたとえ青年であろうが執着心を芽生えさえないことができなかった。どうにかして朱星雷をそばに置きたいと考え始めていた。

 今夜はこのまま申陽菜のもとで隆明は過ごすことになる。申陽菜は医局長の陸慶明に作らせた、体臭をかぐわしい花の香りに変えさせる薬湯を飲んで寝台でスタンバイしている。

「今夜こそ、隆明様を夢中にさせてみせるわ」

 はかなげな肢体と表情の下に、誰よりも負けたくないという強い気持ちが宿っている。申陽菜はとにかく自分が一番大事にされていないと気が済まなかった。
 しかし思惑はなかなかうまくいかず、隆明は気もそぞろでぼんやりした夜を過ごした。申陽菜が甘く話しかけても生返事ぐらいで、結局、添い寝をするだけだった。
 朝げを一緒に食べ、笑顔で隆明を朝廷へ送り出した後、申陽菜は癇癪を起こす。

「一体、何が気に入らないのよ!」

 あまりにもそっけない隆明の態度は、彼女にとってまったく理解ができない。頭に血が上ったようで、ふらふらと申陽菜はしゃがみ込んでしまう。

「陽菜さま」

 かけよる宮女に身体を支えられ、寝台に腰掛ける。

「なんだか、具合が悪いわ。薬師を呼んでちょうだい」

< 107 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop