華夏の煌き
「なんだ。忠正」
「殿下の歓迎会をするんですか? 俺んちで」
「ば、ばかもの! そのような品のないことはせぬ!」

 慌てて孫公弘は手を振った。それを見て曹隆明が「歓迎会とな? 私にはしてくれぬのか」と孫公弘に尋ねた。

「そんな、こんな庶民の歓迎会など殿下には不愉快なだけです。何か御身にあったら」

 顔を赤くさせたり青くさせたり忙しい孫公弘に「冗談だ」と隆明は優しく告げる。余計なことを言った徐忠弘をにらんだ後、「では、学習を続けるように、俺は教官室にいる。何かあればすぐに言いに来るんだぞ」と隆明に深く礼をした後教室から出ていった。
 軍師見習いの3人が顔を突き合わせていると、隆明が話しかける。

「私のことは気にするな。これまでの続きをするがいい」

 そういわれて、とりあえず三人でやっていた軍略の続きを始める。

「では俺からだったな」

 郭蒼樹は地図の上で、駒を動かし細い谷を通るだろう敵軍のために伏兵を設置し始める。それに対して、徐忠弘と星羅は自国の軍をあらゆる策で行軍する。
 三人三様の行軍の仕方や戦略に、曹隆明も感心して眺める。しかし彼の目線は主に星羅に注がれていた。仮想の行軍中に星羅は「あれはなんだったかな」と慌てて兵法書をとりに踵を返した。ちょうど砂がこぼれていたところで星羅は足を回転させたので滑ってしまった。
「きゃっ」

 転ぶかと思った矢先に、ふわっと隆明に抱きしめられ転ばずに済んだ。

「大事ないか?」

 目の前の王太子に星羅は慌てて身体を離し「殿下、申し訳ございません」と跪く。隆明は「よい。立ちなさい」と星羅の手を取った。
「お、畏れ多い」

 ますます恐縮する星羅に隆明は笑う。

「本当によいのだ。そなたたちは大事な軍師見習いでこの国の責を担うことになろう。精進するのだぞ」
「はい!」
「まあでも今日はこの辺で私は帰ろう。次はもっと緊張を解いてほしい」

 そういって衣擦れの音だけを残し隆明は教室を出ていった。すぐに孫公弘の「お帰りですか?」と大きな声が聞こえた。

「はあ、緊張した」

 星羅はほっと胸をなでおろした。

「まったく星雷はひやひやさせるよな」
「王族の身体に触れると本来、不敬罪あたりかねん」
「不敬罪?」
「冗談だ」
「悪い冗談はよしてくれ」

 ふっと笑う郭蒼樹に星羅は目を丸くする。

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