華夏の煌き
61 郭家にて
 軍師省に王太子、曹隆明が訪れるようになって半年も経つと、見習い三人は随分と打ち解け、礼儀を崩さないものの素直に慕っている。見習いたちの活発な議論や、平和でも、臨時の時に対する方針や対策を立てる姿に、隆明も活力を与えられていた。

「ここにくると若返る気がするよ」

 穏やかな笑みを浮かべた隆明に「まだまだ殿下はお若いです」と星羅は答えた。

「そうか、星雷はそう思ってくれるか」

 隆明は彼女が男だと思っているが、そう言われると嬉しかった。

「来週、私のところでちょっとした音楽会を開く。そなたたちも招待しよう」
「え! 本当ですか!」

 星羅と徐忠弘は目を丸くする。郭蒼樹だけは落ち着いて「光栄です」と答えた。彼は軍師家系なので王族との付き合いが元々盛んなのだろう。驚くことはないようだ。
 王太子の曹隆明が帰った後、星羅と徐忠弘は二人で話し合う。

「王太子様の音楽会だぞ? どうするよ」
「この格好だとまずいのかな」

 星羅は男装の着物はこの軍師省のものしかなかった。娘の格好に戻すのであれば、もう少し凝った装いができるのにと思ったが、いきなり娘の装いで行くのは変だろうと思い、その考えはやめる。

「今から新調するのも時間がかかるだろうな。家に帰るほうがましか」

 徐忠弘は裕福なので、こういった集まりで着ていく上等な着物は持っているが実家に合った。馬を飛ばせば来週の音楽会には間に合いそうだ。

「ちょくら家に帰って着物をとってくるよ。こんな機会めったにないし」
「そうだな。しばらく家族とも会っていないだろうから様子を知らせるといいよ」
「だな。じゃ、これで」
「も、もう?」

 徐忠弘は時間が惜しいようで、すぐに帰ってしまった。どうしようかと思案している星羅に郭蒼樹は声を掛ける。

「星雷」
「ん?」
「俺のところに来るか。着物くらい貸してやろう」
「え、蒼樹の着物?」
「うん。忠弘に貸すにはちょっと大きいだろうが、星雷には大丈夫だろう」

 徐忠弘は星雷よりも背が低く、蒼樹とは頭1つ半背丈が違うが、星羅はまだ頭一つ分くらいの差だった。

「いいのかい?」
「ああ、うちは、それ用の着物はまあまああるから」
「そうか。僕は着物はこれしかないからな……」
「それだけ?」
「あ、いや。普段着はあるけど」
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