華夏の煌き
「ふーん。まあ、忠弘も帰ってしまったことだし、今から行くか」

 早速、星羅も着物を借りるために郭蒼樹の屋敷に行くことになった。彼の家は都の中でも一等地にあり、馬に乗ってすぐのところにある。

「すごいなあ」

 立派な屋敷に星羅は唖然とする。医局長の陸慶明の屋敷も立派で大きく優美な雰囲気があるが、郭蒼樹の屋敷は物々しく、重そうで頑丈そうな扉と、屋敷を取り囲む壁もまたレンガ造りで要塞のようだった。

「こんな造りだと、臆病者にみえないか?」

 自分の家に皮肉めいた言い方をする。

「いやあ。籠城することも策のうちなのだろう」

 一般人の屋敷とはまるで違う造りに星羅は素直に感心していた。

「入り口はこっちだ」

 どうやら大きな扉は普段使われていないらしく、少し壁伝いに歩くと小さな扉があった。馬を預け、屋敷の中に通される。池も小川も愛でる花などもなかった。代わりに食用できる果樹などが多く植わっている。

「うちの家訓はどんな時でも、気を抜かないように実用的なものしかないのだ」
「なるほど」
「楽器もないし、花もない。装飾品の類も普段は蔵の中さ」
「さすが徹底されているのだなあ」
「優雅さを求めたらもう頭脳は使えないということだが、屋敷から外に出たら、芸術にいくらでも触れられるからな」

 郭家では屋敷内で優雅さを求めなくても、王族や他の高官と付き合っていると、必然的に優雅な状況に至る。音楽を家で奏でなくても、どこかの屋敷に行けば勝手に流れてくるのだ。そのため、芸術に疎いわけではない。むしろ楽曲にも、舞踊に関しても並々ならぬ知識がある。

「さて、ここでちょっと待っていてくれ」
「うん」

 客間に通され、星羅は椅子に腰かける。やはり机も椅子も装飾がされておらずシンプルなものだ。堅牢な柱などを眺めていると、郭蒼樹は二人の使用人につづらを運ばせてやってきた。

「ここにおいてくれ」

 大きなつづらそっと置いたのち、使用人は「あとでお茶をもってきます」と頭を下げて去った。使用人も必要なことしか話さず、無駄に愛そう良くすることはないようだ。

「この中のものどれでも好きなものを選べばいい」

 中を覗くと、上等な絹織物が詰まっている。軍師の家柄とあって色味は渋く、華やかさはないがシックだ。

「こんな綺麗な着物は見たことがないなあ」

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