華夏の煌き
 星羅はたとえ男物であっても、美しい着物にうっとりする。かすかに木の良い香りもする。触るのをためらっていると「ほら、これなんかは合うだろう」と郭蒼樹は、藍色の着物を出す。金糸と銀糸が織り込まれ、夜空の星がちりばめられたようだ。

「へえ。綺麗だなあ」
「着てみろよ」
「え、あ、ああ」

 きょろきょろする星羅に「どうかしたのか?」と郭蒼樹は尋ねる。

「いや、どこで着替えようかと」
「ここでいいだろ」
「ここ、か」
「なんだ」

 一番上の着物だけ脱いで羽織ればよいので、全裸になるわけではないが星羅はためらう。

「ちょっと向こう向いていてくれるか?」
「ああ、なんだ。恥ずかしいのか」

 特に気に掛けるわけでもなく郭蒼樹は星羅が言うように後ろ向きになる。星羅はさっと帯を解き、空色の着物を脱いでから、すぐに藍色の着物を羽織る。少し丈が長いようだが、一つ折り返して帯を締めれば大丈夫だろう。
 つづらの中におそろいのような帯があったので締める。今までで一番上等な着物をきた星羅は興奮する。

「どうだ?」
「うん! すごく綺麗だ!」
「どれ」

 振り向いた郭蒼樹は何か変な表情をする。

「はて? なんだか星雷、おかしい――?」

 きょとんとする星羅に郭蒼樹は目を見張る。そして視線が注がれるところに気づき、慌てて星羅は後ろを向く。
「おい、星雷。それはなんだ」
「あの、えっと」

 初めて着る美しい着物に、うっかり胸の下で絞めてしまった帯のせいで、身体のラインが娘らしい。明らかに男と違う柔らかいふくらみは、誰の目から見ても女だとわかる。

「女だったのか」
「あ、うん、そうなんだ。ごめん」
「はあ。なんか最初から変な奴だと思っていたが……」
「軍師省は女が一人もいないから……」
「まあ、そうだな。そのほうが俺たちもやりやすいかも」
「怒ってる?」
「いや、怒る理由がない」

 笑った郭蒼樹は、今までで見た中で一番優しく感じられた。

「まあ、でもそのままにしておけばいいさ」
「ん。忠弘にも話したほうがいいだろうか」
「んー。どうかな。気にしてない良いだしわざわざ言わなくてもいいだろう」
「そうするか」
「まあ、しかし、女の身でよく軍師を目指したな」
「それは、よく言われる」
「ほら、帯を直せよ」

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