華夏の煌き
先の王后と、現在の王后は2つしか年は離れておらず、王子たちも同じ年の差だった。このわずか2年の差に、現王后が歯がゆい思いをしているのは誰の目でも明らかだった。しかし占術の結果でも、隆明が太子となり、王となることは王朝の安定に必須だった。隆明の星は王の星であり、人を統べる星なのだ。その王の星を持つ王子を生むべく選ばれたのが、もちろん先の王后だ。残念なのは、彼女が早世してしまったことだ。
陳賢路はより白くなった長いひげを撫で、青い空を見上げ夜空の星を思い起こす。
「昼間は星が見えん。見えないものがあるのは仕方がない」
常々占術によって最善の選択をしてきた王朝だが、やはり予想外のことも起きてしまう。人々や物事が、宿命によって決まった末路をたどることはないが、星読みの陳賢路にとってのジレンマでもあった。また老いてきた自分の残された時間も気になっている。医局には慶明のような次世代を担う人物がいるが、太極府ではとびぬけたものが出ていない。的中率の高さでは、晶鈴が群を抜いているが彼女は短期間のことしか観れない卜術使いだ。できれば長期間観ることができる、星読みを後継者にしたかった。
「これも天意だろうか」
10年に一度は出ていた突出した存在が今は現れぬ。今夜も夜空を見ながら、星の瞬きに尋ねるしかないと陳賢路は太極府へと向かった。
8 太子
一人だけ従者を連れて、隆明は太極府を訪れた。
「ここはいつも静かだな」
太極府には人がいても、じっと探求と考察を続ける場所なので、雑音が少ない。今聞こえるのは、カタ、カタと算木を置く物音や、書物のめくれるかすかな摩擦音ぐらいだった。従者を外で待機させ、勝手知ったる太極府の中をどんどん進む。かといって、王子が来たなどと権威を示すようにずかずか上がり込むことはない。そっと忍び足のように『卜』とかかれた部屋に入った。部屋には一人、晶鈴だけが隅のほうで座って石を並べている。囲碁の石を置く音よりも優しい、コトリ、コトリという音を、心地よく隆明は聴く。
陳賢路はより白くなった長いひげを撫で、青い空を見上げ夜空の星を思い起こす。
「昼間は星が見えん。見えないものがあるのは仕方がない」
常々占術によって最善の選択をしてきた王朝だが、やはり予想外のことも起きてしまう。人々や物事が、宿命によって決まった末路をたどることはないが、星読みの陳賢路にとってのジレンマでもあった。また老いてきた自分の残された時間も気になっている。医局には慶明のような次世代を担う人物がいるが、太極府ではとびぬけたものが出ていない。的中率の高さでは、晶鈴が群を抜いているが彼女は短期間のことしか観れない卜術使いだ。できれば長期間観ることができる、星読みを後継者にしたかった。
「これも天意だろうか」
10年に一度は出ていた突出した存在が今は現れぬ。今夜も夜空を見ながら、星の瞬きに尋ねるしかないと陳賢路は太極府へと向かった。
8 太子
一人だけ従者を連れて、隆明は太極府を訪れた。
「ここはいつも静かだな」
太極府には人がいても、じっと探求と考察を続ける場所なので、雑音が少ない。今聞こえるのは、カタ、カタと算木を置く物音や、書物のめくれるかすかな摩擦音ぐらいだった。従者を外で待機させ、勝手知ったる太極府の中をどんどん進む。かといって、王子が来たなどと権威を示すようにずかずか上がり込むことはない。そっと忍び足のように『卜』とかかれた部屋に入った。部屋には一人、晶鈴だけが隅のほうで座って石を並べている。囲碁の石を置く音よりも優しい、コトリ、コトリという音を、心地よく隆明は聴く。