華夏の煌き
 くるっとまた蒼樹は後ろを向く。さっと帯を直して、星羅は「できた」と声を発した。
「よく似合ってるよ。それを持って帰ればいい」
「ありがとう。汚さないように気を付けるよ」

 もう一度着替えなおして、軍師省の着物に戻る。こちらは着慣れているので迷うことなく腰に帯を締めた。

「星雷って本名か?」
「いや、ほんとは星羅」
「なるほどな」

 ばれてしまったが蒼樹は大して気にしていないようで、星羅はほっとする。

「そろそろ帰るよ」
「ああ」

 着物を風呂敷でくるみ星羅は背負った。上等な着物と帯は、たくさん絹を使われているようでずっしりと肩にくる。

「持って帰れるか?」
「ん? 平気だよ。落とさないから心配しないで」
「大丈夫ならいい」
「じゃ」

 星羅は優々に跨ってゆっくりかけだす。郭家をあとにし、しばらく馬を走らせているとふっと気づくことがあった。

「蒼樹に心配されたの初めてだな」

 何気ない気づきのせいで、蒼樹の心情の変化までは見通せなかった。

 
62 宴
 いつもよりも丁寧に髪を梳かしまとめ上げ、星羅は郭蒼樹に借りた着物を着る。上等な絹織物に母の朱京湖はうっとりと生地を撫でる。

「この国の織物はほんとうに素晴らしいわね。重厚で繊細で丁寧で」
「西国にもいいものがいっぱいあるでしょう?」
「うーん。緻密さが少し違うわね。国のせいかしらね。西国は暑いから」
「そうなのね」

 くるりと一周して見せる星羅に「これならどこに出しても恥ずかしくないわ!」と京湖は感嘆する。

「晶鈴がみたら、どんなに立派になったかって思うかしら……」

 歳のせいだろうか、キャラバンで胡晶鈴の噂を聞いたせいだろうか。京湖はまた涙もろくなっている。

「わたしが立派に見えるなら、それはかあさまが育ててくれたおかげだわ」
「ありがとう……」

 力強く星羅は心からそう思っている言葉を発する。実際に京湖は子煩悩で、兄の京樹と星羅を大変慈しんだ。もちろん夫の彰浩に対しても思いやり深く優しく尽くしている。とても高官の娘とは思えない献身ぶりだ。

 京湖に言わせると、娘時代は自由奔放で好き勝手しても誰にも諫められることはなく、毎日楽しいことばかりして過ごしたということだ。今は、贅沢もできず、一日中家事に追われて自由に遊ぶ時間はない。それでも愛する夫と子供たちに囲まれて幸せだという。
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