華夏の煌き
 実の子ではない星羅が卑屈にならず、素直に明るく育ったのは京湖の、大らかで愛情深い育て方のおかげだろう。

 今日の音楽会は王太子と妃たちが住まう、中央から離れた王太子宮の庭で行われる。美しい白壁に囲まれた宮は、高さを誇る王の住まい銅雀台とは違い、優美で可憐だった。王太子が王に即位すればここから離れて銅雀台へ住まう。
 そっと白壁を撫でた星羅はその滑らかさに驚く。そしてこの宮は、穏やかで優しく優雅な隆明のようだと思った。
 優美さとは裏腹に門番は物々しい。いかつく険しい表情の門番に声を掛ける。

「あの、王太子様に招かれたものですが」

 じろりと見下げる大きな男に星羅は『軍師見習い 朱星雷』の札を見せる。確認して頷いた男は門の隣のやはり小さな扉を指さし「そこからどうぞ」と視線をやった。
 頭を下げて星羅は扉を開く。

「あっ」

 入るとすぐに庭があり色とりどりの花が咲き乱れている。自然の美しさがここに凝縮されたような典雅な様子だった。

「桃源郷とはこんなところかしら」

 ぼんやり見ていると、「星雷」と声を掛けられた。振り返ると、郭蒼樹と徐忠正が立派な装いで立っている。

「お、見違えたぞ」

 徐忠弘の明るい声に「こっちだって、どこの王子かと思ったよ」と星羅は答えた。
徐忠弘の着物は、明るいオレンジ色でざっくりとした荒い織り目だが、何層にも重ねられていて豪華だ。裕福な商家だと思わせるが、成金ではないので下品さはなかった。徐忠弘の気さくなキャラクターに良く似合っている。

 郭蒼樹はもう軍師の貫禄がある。青みを帯びた灰色の渋い着物に黒い帯だ。あたりをきょろきょろと興味津々で見ている忠弘と違い、蒼樹は慣れた様子でじっとあたりを見ている。

「そこが会場だろう」

 郭蒼樹の指さすほうを見ると、柔らかい草の上に赤い色の毛せんが何枚か敷かれている。きちんとした台座を作ることなく簡単に敷かれた様子を見ると、私的な集まりで堅苦しさはなさそうだ。

「僕たちはどこに座ればいいのかな」

 星羅が尋ねると「おそらく、その下座だ」と蒼樹が答えた。遠目からでもわかる華やかな集団がやってきた。王太子、曹隆明と妃たちだ。一人の官女がさっとやってきて「軍師のみなさま、こちらへどうぞ」と案内してくれた。

「軍師だってさ」

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