華夏の煌き
 徐忠弘は見習いが省略されただけなのに嬉しそうな顔をする。緊張していた星羅もおかげで硬さがほぐれた。王太子、曹隆明の前にいき三人は拝礼する。

「よい、面を上げよ。気楽にしてそこに座るがよい」

 蒼樹の言った場所に案内され三人は座る。

「華やかだな」
「うん」

 忠弘は隆明と妃たちの豪華絢爛な着物に目を奪われている。彼は目利きでもあるので、それらの着物や装飾品がどれだけ価値の高いものかよくわかっている。

 目の前に、酒や肴、果物が運ばれる。豪華さに目を見張るが、白地に青い染付をされた器を見てふっと養父の朱彰浩を思い安心感を得た。彰浩が作ったものかもしれないと思うと、そばに彼がいるようで安らぐ。彰浩は無口であれこれいう人ではないが、一家を支え誠実な人だ。星羅のことを、京湖と同様、実の娘として愛情を注いでくれている。幼い星羅をロバの明々に乗せ、よく散歩に出かけた。

「おや、お妃さまたちは4人しかいないぞ」
「あれ、ほんとだ」

 着飾った妃たちは、隆明の左右に2人ずつ侍っている。そのうち二人の、隆明に近い妃の後ろにはまだ幼い王女が官女と控えている。
 小声で蒼樹は星羅と忠弘に囁く。

「王太子妃さまの具合はいつも良くないのだが、王女さまの具合もよくないのだ」

 王太子妃の桃華はずっと臥せったままで、王太子の長子である王女も病弱で公の場に出ることがなかった。気の毒なことだと思い、気が沈みそうになると笛の音が聞こえてきた。

 王太子の曹隆明が美しい音色を奏で、側室の周茉莉が高くかわいらしい声で歌いだす。『詩経』のような堅苦しいものではなく恋の歌で、明るく開放的な内容だ。おそらく周茉莉の出身地方の歌だろう。

「茉莉さまはかわいらしい歌声の持ち主だなあ」

 耳に障りの良い声に忠弘はうっとりしている。歌が終ると、今度は新しく迎えた側室二人が、それぞれ琵琶と琴を演奏し始める。さきほどの隆明のしっとりとした演奏と違い、スピード感があり、転調が激しい。官女の一人が小さな鐘を鳴らすと、側室の申陽菜がさっと出てきた。
 軽装な薄衣に、羽衣を何枚かと扇を持ち、まるで飛んでいるかのような舞を踊る。

「すごい!」

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