華夏の煌き
 アクロバティックな動きの中に、優雅さと妖艶さを演出する申陽菜に星羅と忠弘は見入る。官女たちもため息をつきながら素晴らしいわと口々に囁いている。激しい動きなのに汗もかかず息も乱さない申陽菜は、まさしく国随一の舞姫だと誰もが思うだろう。 

 内輪の集まりとはいえ、やはり王族だ。庶民では観ることも聴くこともできない。子供のころから芸術に触れる機会が多かったという、徐忠弘でも舌を巻くようだ。

「いやあ、今までも国一番ってものを観てきたがそうでもなかったな!」
「本当だな。王太子様に感謝しなければ」

 興奮している星羅と忠弘にに蒼樹は優しく微笑んだ。

「蒼樹は慣れっこなんだな。やっぱり代々軍師家系は違うな」
「いや、そういうわけでもないが」

 単に感動が薄いだけのようで、蒼樹の関心は芸術にはさほど注がれないようだった。

「この桃もこんなに大きいものはないぞ」
「初めて見たよ、こんな大きい桃」
「古代では桃1つで大混乱が起こったこともあったからな」

 星羅は美しい歌と舞、そして素晴らしい果物と酒にまるで夢のようだと思った。ふっと正面の曹隆明と目が合う。隆明は優美な笑みをみせじっと星羅を見つめた。星羅はなんだか胸がどきどき高鳴るのを感じ、酒を飲みすぎてしまったのかと頭を振る。

 王女たちが隆明にじゃれるようにまとわりついている。周茉莉を母に持つ王女は愛くるしく膝に乗っており、申陽菜を母に持つ王女は幼いながらも色気があり、隆明の首に手をまわしている。それぞれの母は、隆明と二人きりの時にそうしているのだろうと誰もが予想できる。
 そんな王女たちを見ていると、なぜだか星羅は胸が苦しくなってきた。なぜだかわからないが切なく辛くなってくる。

「さて、そろそろ終わりにしよう」

 隆明が立ち上がると妃たちも立ち上がる。軍師見習いの三人も慌てて立ち上がった。

「どうだ。楽しかったか?」

 隆明の言葉に3人は恐縮して礼を述べた。

「星雷は少し酔ったのか?」
「え?」

 すっと隆明の指先が星羅の頬をかする。

「また軍師省で会おう」

 くるっと隆明は妃と官女を連れて立ち去った。

「さて、俺たちも帰るか」
「あ、ああ」

 ぼんやりしている星羅に忠弘が声を掛けた。

「楽しかったな。しかし隆明様はほんとうにお優しいかたであるなあ」

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