華夏の煌き
「宴はどうだった?」
「え? 宴? あ、あのすごく楽しかったです」

 話しかけられることがとても嬉しい。軍師省での議論はもちろん楽しいが、もっと隆明とたわいもない会話をしてみたかった。

「ここでよい」

 一応お忍びなので地味な馬車に隆明は乗り込む。すだれを上げ「またな、星雷」と笑んだのち馬車を出させた。

「殿下……」

 はやく軍師になって、もっとそばでお仕えしたいと星羅は思うのだった。



 医局長の陸慶明は、王族の定期健診を行っている。王族から信頼が厚いが、側室の春衣の具合が一向によくならず原因もつかめずにいるので、最近の慶明は自信を無くしている。

「薬師の不養生か? 元気がないようだが」

 王太子、曹隆明の脈診が終ると声を掛けられた。

「いえ、殿下。ちょっと多忙なもので」
「ならばよい」

 もともと美しい隆明だが、中年になり艶のある魅力が増してきている。いつもより機嫌もよさそうだ。

「殿下は今とても好調のようですね。何か良いことがありましたか?」
「ふふ。そうだな、ここ最近で一番楽しいかもしれぬ」

 萌黄色の光沢のある着物をゆったりと着込み、慶明に袖を直された隆明は白い歯を見せ笑う。心から元気になっているのかと思うと慶明は、ほっとするが続く言葉でぎょっとする。

「今、軍師省にいって聴講生をしておるのだ。見習いのものの一人が好ましくてな」
「え? 軍師見習い?」
「そうだ」

 見習いが3人いるが、隆明が好んでいるのは星羅だとすぐにわかった。

「それで、殿下はそのものをどうにかするおつもりで?」
「まだ見習いなのでどうにもできぬが、助手にでもなれば私のそばに置いてもよいかもしれぬな」
「いや、その、それは……」
「慶明よ。不思議な気持ちになるのだ。その青年に会うと、まるで若かりし頃の自分に戻ったように」

 星羅を通して、胡晶鈴を恋しがっているのは、慶明にもよくわかった。しかしこのまま、星羅をそばに置き、間違いでもあれば、慶明は一生、晶鈴に顔向けできないだろう。 
 嬉しそうな隆明を傷つけることになるかどうかわからないが、真実を告げぬままにはもうできない。傷は浅いうちのほうが直りは早いだろう。

「大事なお話があります」

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