華夏の煌き
「うん。星羅は笑っている顔が一番いいぞ。俺の周りの女兵士たちの怖い顔ったらさあ」
「まあ!」

 明るい気性の明樹は、兵士の日常を面白く聞かせる。星羅も軍師省での毎日を話すと、明樹は関心を持って聞き入る。酒が回り、心が軽くなってきた星羅は思わず明樹に尋ねる。

「もしも、報われない恋をしたとしたら兄さまはどうします?」
「報われない? 最初からそんなものするかなあ」
「例えば好きになった人には他に好きな方がいたりとか」
「ああ、俺はあきらめるかなー」
「そうなのですね」
「他にも女人は大勢いるし、時がたてば好みも変わるのではないかな」

 確かに歳を重ねれば、考え方その物も変わるかもしれない。

「じゃあ兄さま。せっかく好きな人と結ばれても別れなければならないとしたらどうします?」
「ええ? 結ばれたのに別れる? そうだなあ」

 考えている明樹の答えを星羅はじっと待つ。

「やっぱり、あきらめるかな」
「そう……」
「なんだよ、さっきからそんなことばかり。ははーん。さては男に振られたんだろ」
「え、そ、そんなこと……」

 星羅は慌てて手を振り、杯を空ける。

「まあ、飲めよ」

 明樹は酒瓶を傾け、星羅と自分の杯になみなみと注ぐ。

「失恋したなら、もう次の恋に行け。ああそうだ。俺が娶ってやってもいいぞ」

 いきなりの発言に酒を吹き出しそうになった。

「家に帰ると、母上が早く結婚しろとうるさいのでな。なんか厄介払いみたいだ。はははっ」
「確かに、もうご結婚してもいい身分ですものね」
「しかし、来年は辺境に勤務なんだよ。新婚早々辺境ではな。夫人は連れて行かないつもりだが」
「お仕事をなさってる奥方なら離れてても平気なのでは?」
「いやあ。それが女兵士たちでも夫とは離れ離れになるのは嫌らしい」
「そういうものですか」
「星妹は平気か?」
「心が通じていれば、たぶん……」

 恋が終ったばかりで、全く想像がつかない結婚に甘い夢は見られなかった。

「そりゃいいな。母上も星妹を気に入っているようだし適当なところで結婚しよう」
「もう、明兄さまったら」
「はははっ、まあ飲もう!」

 明樹のおかげで、ふさぎ込むことが少なくて済んだ。星羅の考え事を深刻に受け止めて、一緒に悩んでもらうより笑って聞いてくれた明樹に感謝する。
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