華夏の煌き
「星羅さま。実はご側室がおなくなりに……」
「え、春衣さんが……」

 喪中のようで家人はみな白装束を着ているようだ。出直そうか、お悔やみを言おうか考えていると息子の陸明樹が小さな扉から出てきた。彼も白装束を着ている。

「あ、やあ星妹」
「明兄さま……。あの、この度は……。知らなくて……」
「春衣は側室だったということもあって、そんなに大きな葬儀はしていないのだ。何か用事か?」
「ええ、おじさまに。でも、また後日に」
「いや、星妹の顔を見ると元気が出るだろう。会ってほしい」

 星羅は明樹の勧めで慶明に会うことにする。屋敷の中はいつも以上に静かで使用人の数も少なかった。先に通りがかりにある夫人の絹枝の書斎を覗く。

「こんにちは。絹枝老師」
「あら、星羅さん」

 絹枝も白装束だ。ただ悲しんでいる様子はなく、事務処理に追われているようだ。

「おじさまにちょっとお聞きしたいことがあってきました」
「そう……。ちょっと気が滅入っているようだから、よかったら励ましてあげて。私はそういうことは、なんていうかあまり上手くなくて……」
「わたしでよければ」
「きっと顔を見ただけで気分転換にもなると思うから、ゆっくりしていって」

 春衣の死を悼んではいるだろうが、それよりも現実的な処理に追われていて絹枝は忙しそうだった。今はまた学舎の卒業シーズンでもあるので、仕事のほうも忙しいのだろう。感傷的になる暇はないといった風だった。

 風とともに線香の香りが漂ってくる。香りのほうに目をやると、広く開け放たれた部屋の一室に白装束の慶明が座っている。そこは春衣の部屋なのだろう。じっと彼が見つめる先には位牌がある。

「おじさま……」

 静かに声を掛けると、少しやつれた慶明が顔を向け優しく笑んだ。

「よくきたね」
「あの、お線香あげてもいいですか?」
「ああ、ありがとう」

 頭を下げ静かに部屋に入り、位牌を目の前にする。手を合わせ春衣のことを思う。星羅が知っている春衣は、使用人頭で家の中を取り仕切り、明樹に対して世話をよく焼いていた。直接話したこともなく、どんな人物だったかはよく知らない。

「春衣さんは、母に最初仕えていたそうですね」
「ああ、当時からよく気が利いててね。浮世離れしている晶鈴の世話を焼いていたよ」
「不自由なさいますね……」
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