華夏の煌き
「星羅の父上のことは公にできないお方なのだ。もしも誰かに知られることがあれば、その方はもちろん、星羅の身に危険があるのだよ」

 黙って星羅は聞く。禁忌の恋心はダメだとわかっていても、星羅の中をさまようばかりでどこにも立ち去ってくれない。

「おじさま。春衣さんはとても長い間気持ちをこらえていたんでしょうね」
「あ、ああ……」

 話がまた春衣に戻り、慶明は虚を突かれたような気になる。

「どうやって自分の気持ちを押さえてなだめていけばいいんでしょう」
「誰か好きな男がいるのかね?」

 慶明は星羅が恋をしているのだとわかった。そしていきなり父親の話を聞きたがる。先日、王太子、曹隆明と会ったばかりの彼は、星羅の苦しい恋の相手が誰だか想像がついた。

「星羅。娘というものは初めて恋する相手は父親になるのだよ。残念だな。私が君の初恋の相手になれなくて」

 できるだけ優しく慶明は話す。

「私も母が大好きだった。母の愛を一身に受けたくて頑張ったものだよ」
「おじさま……」
「実らない、告げられない、報われない。そんな恋は辛いだろう。しかし不思議なものでまた別の縁が出てくるのだよ」
「おじさまにも経験がおありですか?」
「うん。縁がないのだろうと思う。だけどその事に拘っていたら、ほかの良い機会を逃すだろうし、その苦しい思いは良い思い出に変わる」
「良い思い出……」
「今は信じられないと思うが」

 春衣は慶明に、慶明は晶鈴に報われない思いを抱いていたのだろうか。星羅はこの苦しい思いは自分だけが味わっているのではないと思い始めると、孤独感が減ってくる。

「恋した相手をどうにかしたいと望むのは欲望だが、相手の幸せを願うのは愛だろう」
「母は父に対してどうだったのでしょうか」
「そうだなあ。晶鈴はもともと欲の少ない人だったし、いつも皆の幸せを願っていると思うよ」

 養母の京湖も、晶鈴が自分の身代わりになったと言っていた。

「なんか、叶わないですね。母には……」
「はははっ。晶鈴と星羅は母子といっても違う人間だからね。良いところも悪いところも違うものだよ」
「おじさま、ありがとうございます。少し落ち着きました」
「いいんだよ。何かあればいつでもおいで」
「すみません。こんな時に」

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