華夏の煌き
 星羅は少しだけ軽くなった心を感じる。恋する気持ちをすぐに捨てることはできないが、時間とともに落ち着いていくかも入れない。もう一度春衣の位牌に手を合わせ、陸家を後にした。


 若い星羅を見送った後、慶明はまた春衣に線香をあげる。

「春衣。星羅は私たちの青春の象徴のようだな……」

 もう自分の出番は終わったと慶明は実感する。晶鈴に似た星羅を我が物にと思ったことがなくもない。しかし彼女の若くみずみずしい輝きを手の中に収めることはもう無理だった。王太子の曹隆明も、星羅の成長を父親として見守っていくことだろう。初恋の終焉と風化を感じると、慶明は心が鎮まる。不思議なもので鎮静化すると自由に広がっていくものを感じた。

「私もやっと晶鈴の域に達したかもしれぬな」

 後で、靴を脱いで息子の貴晶と庭を散歩しようと考えた。

 
69 見習いの卒業
 そろそろ軍師見習いから、助手に昇格もしくは、軍師省を去る時期がやってくる。毎年、軍師見習いの試験はあるが、しばらく合格するものはなく、星羅と郭蒼樹、徐忠弘3の人のままだった。この三年の間に変わったことは、徐忠弘が星羅の身長を抜いたことだった。

「俺は脱落するかもなあ」

 気の抜けた徐忠弘の言葉に星羅は筆をとめる。

「なぜだ? そんなこと言うなよ」
「うーん。やっぱさあ。軍師って俺には合わないと思う。策も商売のことばかりしか出てこないし」
「商売だっていいだろ。国が富むことだって十分策だろうし」
「なんていうかさ。根本的にあんまり国に対する忠誠心っていうものがやっぱり薄いんだ」
「じゃあ、どうするつもりだ?」
「家を継ぐかな」

 徐忠弘の実家は南方では有名な商家だ。

「せっかくここまで一緒に頑張ってきたのに」

 残念そうな星羅に郭蒼樹が口をはさむ。

「確かに、ここで決断することは良いだろう。忠弘はきっと助手になれるがそのあとは厳しいと思う」
「蒼樹もそう思うか? 軍師というものは蒼樹や星雷みたいな、頭が冷め切ったやつか、心が熱いやつがなるもんさ」

 徐忠弘は話しながら、より納得していっているようだった。

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