華夏の煌き
 竹簡に記した策を三人は教官の孫公弘に渡した。徐忠弘は商品の流通に関して、郭蒼樹は軍事に関して、星羅は治水に関する策を講じた。結果は明後日ということで三人は久しぶりに町へ行き、酒屋で慰労会を始める。今日はしこたま飲んでやろうと、二階の奥座敷を用意してもらう。

「お疲れ様」
「一仕事だったなあ」
「手ごたえがあったな」

 あっという間の三年間だったが、濃厚だった。星羅は曹隆明を男として意識する恋心と、父としての思慕の間で苦しみながら過ごした。治水に関する策は、隆明が黄河の氾濫で苦しむ民のことを話していたからだ。星羅は隆明の心の負担が少しでも軽くなるようにと策を講じる。結果的に良策であるが、その策を生み出す過程を知られれば、感傷的な策だとよい顔をされないだろう。

「忠弘の策も通ると思うけど、本当に辞めるのか?」

 星羅は、徐忠弘の能力を惜しむ。

「ああ。通ったとしてもな。もうこれ以上策は出てこないよ」
「惜しい気がするがな」

 郭蒼樹は徐忠弘の杯に酒を注ぐ。

「お前たちは軍師になってくれよ?」
「頑張るよ」
「ほかにやることがないからな」
「はははっ。やることないからって、さっと試験に合格されたじゃあなあ」

 忠弘は笑って杯を空ける。

「しょうがないだろう。商人にも農民にもなれぬだろうし」
「確かに、蒼樹が商人だと仏頂面で何も売れそうにないなあ」
「土を耕す前に考えていそうだよなあ」
「人には適材適所というものがあるからな」
「忠弘はどこで何をしても適材適所ってかんじだなあ」
「それもなあ。器用貧乏ってやつか?」
「貧乏じゃないだろう」

 他愛もないことから、真剣な話、想像までいろいろな会話を交わしあう。3人ともはっきりした個性と考え方があり、切磋琢磨しあってきた。これから徐忠弘がいなくなると思うと星羅は残念でならなかった。
 人が引け始め、店の者がそろそろ終いたいと言ってきた。

「ああ、もうそんな時間なのか」
「僕はそろそろ帰るよ。二人はまだゆっくりしたらいい」

 遅くなると京湖に伝えてはいたが、ほどほどにしておこうと星羅は二人に別れを告げる。

「夜も遅いことだし、送ろう」
「いや、いいよ。優々であっという間に帰れるから」
「まあまあ、星雷。遠慮するな。さすがにこの時間におなご一人を帰らせるわけにはなあ」
「え?」

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