華夏の煌き
 徐忠弘の言葉に星羅は驚きまじまじと彼の顔を見る。

「なんだ?」
「あの、僕が女だと知っていたのか?」

 郭蒼樹も怪訝そうに徐忠弘を見ている。

「ああ、最近だけどな。星雷はちっとも背丈が伸びないし、声も変わらないからな、そうかなーって」
「そっか、わかってたのか」
「だからって別にどうだってこともなかったんだけどな」
「ありがとう」
「気にするなよ。女軍師目指してがんばってくれよ」
「うん!」
「じゃ、ここで。蒼樹、後は頼む」
「ああ、任せておけ」

 徐忠弘は機嫌のよい顔を見せ去っていった。星羅は郭蒼樹と二人で軍師省の厩舎にむかい、それぞれ馬を引いてきた。

「帰るか」
「うん」

 2人は無言で馬に乗り走らせる。思う言葉は同じで『寂しくなる』ということだった。


 徐忠弘が寄宿舎に帰ってくると、教官の孫公弘もちょうど帰ってきたようで「ようっ」と声を掛けられた。

「孫教官、お疲れ様です」
「どうだ。食堂で一杯やらねえか?」
「今、蒼樹と星雷と飲んだばっかりなんだよなあ……」

 頭をひねっていると「まあ、こいよ」と強引に連れていかれた。夜更けの食堂は誰もおらず広々としていた。

「もう調理員は寝てるんじゃないですか?」
「いやいや、オヤジはまだまだ起きてるさ。なあっ! 酒と何か肴を頼む」

 厨房へ孫公弘が大声でどなると「ちょっと待ってろっ」と返答があった。

「な? ほら、そこ座れ」
「は、はあ」

 すぐに厨房から男が酒を運んできた。初老の男はいかつく目つきが鋭い。徐忠弘は相変わらず迫力のある食堂のオヤジだと、目をそらす。酒瓶を置くとすぐに戻り、肉と青菜を炒めたものを持ってきた。

「ほらよ」
「おお、すまんすまん」
「ゆっくりやんな」

 男はまたプイっと厨房へ戻っていった。
「ほら」
「あっ、おっとと」

 なみなみと酒を注ぎ杯を重ね飲み干した。軽く一杯やった後で孫公弘が尋ねる。

「結果は気にならないのか?」
「結果? ああ」
「なんだよ。気にしてなかったのかよ」
「あいやー。気にしてないというか、どっちにしても俺はもう、この辺が引き際かなって」
「お前がいるといい均衡を保つんだが、これからどうなるかなあ」
「蒼樹と星雷の組はなかなかいいと思いますけどね。夫婦軍師とかになったりとか。はははっ」

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