華夏の煌き
 おやっという顔をして孫公弘は杯をそのまま空に浮かせた。

「星雷が女って知ってたのか」
「途中からですけどね。うちは女中だらけなので女には目ざといですよ。教官も知ってたんですか?」
「そりゃあな。上のものはみんな知ってるさ。まあ軍師省初の女人ということで、星雷の希望で男装してたわけだが」
「星雷も変わってるよなあ。嫁の行きてがあればいいが」
「嫁に行く気などないだろう。ああ、でも嫁ぎ先はたくさんありそうだぞ。わはははっ」

 徐忠弘はその話を聞いてちょっと残念な気がした。秘かに彼女を気に入っていたので、行き遅れたら自分が娶ってもいいくらいに思っていた。

「そうか。じゃ、せめて婚礼衣装くらいうちで用意してやるかな」

 そんな徐忠弘の気持ちに気づいてかいないのか、孫公弘はどんどん酒をつぐ。

「ここに入ったばっかりの時にもさんざん飲んだよなあ」

 自分の部屋で歓迎会と称する飲み会を、徐忠弘は懐かしく思い出した。なみなみと注がれた杯の酒には、あの頃の少年のような徐忠弘ではなく、立派な青年が映っている。

「華夏一番の商人にでもなるか」
「おう! お前ならできる!」

 再び乾杯して門出を祝った。

70 昇格

 軍師見習いから助手になった朱星羅と郭蒼樹は改めて、大軍師の馬秀永にあいさつをする。

「ほーっほっほ。また顔が見れたの。じゃが2人か」

 白く濁った眼で交互に星羅と蒼樹の顔を見る。

「まあ、しょうがない。助手も久しくいなかったくらいだし。軍師省が大所帯にはなるまいな。では精進する様に」

 軍師試験は定員制ではなく、高すぎる一定の水準を超えねばならなかった。そのため数年間、見習いさえいないときもある。星羅の年は豊作だったようだ。二人が助手に昇格したのち、見習い試験に受かったものがやっと一人出た。

「ここまで来たら後には引けないぞ」

 郭蒼樹は星羅に覚悟させるように言う。

「わかってる。忠弘はほんとうに引き際を知っていたんだな」
「うむ。辞めるものはやはり見習いのうちにやめるようだ」

 これから本格的な軍師の道を進む。助手からは朝議に参加できるようになり、その場で上奏することはできないものの、意見を教官以上のものに提出して審議してもらうことも可能になる。
 星羅は朝議で出ることで、頻繁に王太子の曹隆明に会えることが嬉しかった。

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