華夏の煌き
「ありがとう。星羅。私のことを気遣ってくれてるのね。私はこうやって家を整えて食事を作って、あなたたちの話を聞くことが大好きだわ」
「かあさま……」
「こんなに幸せな日が来るなんて思いもしなかった」

 目を細め微笑んでいる京湖を、見つめながら彰浩も笑んでいる。

「だから何も気にしないで。星羅は星羅の好きなことを頑張ってくれたら私はとても嬉しい」
「そう。それならわたしも嬉しいわ」
「ふふっ。じゃ、お茶でも淹れるわね」

 茶を淹れに席を立ち、京湖は台所へと向かった。星羅が食器を片付けていると、扉を叩く音が聞こえた。彰浩が立ち上がり「誰だろうか」と様子を見に行った。
 京樹も「客なんて珍しいね」と扉のほうを見つめる。朱家に客が訪れることがほぼないので、ちょっとしたイベントのようだ。
 彰浩がすぐに客を連れて戻ってきた。星羅はその客をみて「あらっ」と声をあげた。図書館長の張秘書監だった。

「やあ、こんな時間に失礼。皆さんがお揃いのところでと思ってたのでな」
「こちらへどうぞ」

 彰浩は客間に通し、椅子を差し出す。

「これはどうも。わしは座卓よりも椅子のほうが膝が楽でいい」

 ふっくらした腹をゆすって腰掛けると木製の椅子がぎしっとなった。朱家では床に座る習慣がないため、椅子生活だ。

「しかもなかなか座り心地がよい。どちらで手に入れたのですかな?」
「これは私が作りました」
「ほう! さすが官窯で一二を争う腕前ですなあ!」

 机も椅子も器用な彰浩の手作りだった。机や椅子も、彼の作る陶器と同じく飾り気のないシンプルで飽きのこないものだ。
 京湖がシナモン入りの紅茶を張秘書監に差し出すと彼は、また嬉しそうに「いい香りですなあ」と腹をゆすった。

「で、どのようなご用件で」
「医局長の陸慶明殿をご存じだと思いますが」
「ええ、もちろん」
「こちらを預かってまいりました」

 机の上に風呂敷包みを広げて中から書状をとりだす。竹簡ではなく、上等な紙の巻物だ。手渡された彰浩は中に目を通し「星羅、こちらへ」と後ろのほうで様子を見ていた星羅を呼ぶ。

「読んでご覧」
「はい」

 それほど長い文章ではないが、星羅を十分に驚かせる内容だった。

「あなた?」

 京湖が心配そうに声を掛ける。京樹も黙って様子を見守っている。

「星羅に縁談の話だ」
「縁談? 陸殿から?」

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