華夏の煌き
 いきなりの話に慌てる京湖に張秘書監が「いやいや、息子の明樹殿ですよ」と説明した。陸慶明が張秘書監を仲人に立て、息子の明樹との縁談を持ってきたのだった。

「いい話だと思うが、星羅の意思を尊重したいので」
「ええ、ええ。先方もそう言ってました。で、こちらは星羅殿に」

 星のような桔梗のような形の花がちりばめられた金細工のかんざしだった。店先では見られないような繊細な造りはおそらく特注品であろうと思われる。

「綺麗ねえ。とても星羅に似合うと思うわ」
「ええ、綺麗」

 紺色の布地の上で輝くかんざしはまるで天の川のようだ。しかし朱家の4人は突然の申し出にどう反応したらいいのかわからず、陸慶明からの書状とかんざしを交互に見るだけだった。

「では、これで。数日したらまた参りますので、その時にできたらお返事を下され」

 シナモン紅茶をうまそうに飲み干して張秘書監は立ち上がる。彰浩は彼を見送るため外に出ていった。固まっている星羅の肩に京湖はそっと手を置く。

「星羅。気に入らない縁談なら断っていいのよ? 陸家にはお世話になっているけど、気にしなくていいのよ」
「かあさま……」

 京湖の顔を見た後、星羅は京樹のほうへ目をやる。

「京にいはどう思う?」
「どうって……。星羅の好きにすればいい」

 そういった後、珍しく不機嫌そうに京樹は部屋に戻っていった。京樹の後姿を不思議そうに見ていた京湖はとりあえず今日はもう休むようにと星羅に告げる。
 星羅は言われるまま、部屋に行き寝台に横たわった。

「明兄さまと結婚……」

 まえに冗談で明樹が星羅を娶ってやると言っていたが本気だったのだろうか。結婚することに関しては肯定も否定もない。同級生だった女学生たちはもうほとんど結婚しているようだ。
 明樹のことを慕ってはいる。彼は明るく気さくで武芸にも秀でていて勉強も熱心だ。星羅が学生であったころ、彼にあこがれる女生徒は多くいて、星羅も素敵な男性だと思っていた。
 絹枝老師に会うために陸家によく訪れるようになると、明樹が気さくに声を掛けてくれ、いつの間にか軍師試験などの協力者になってくれていた。
 人柄も家柄も申し分ない縁談なので断る理由を探すほうが難しい。

「馬には乗ってみよ人には添うて見よ、かなあ」

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