華夏の煌き
 恋心は曹隆明によってはかなく消え去った星羅にとって、自分の気持ちを考えることはなかった。明日、郭蒼樹にも相談してみようと目を閉じた。眠りにつく瞬間に思い描くのは曹隆明だった。
 

73 婚礼
 真紅の花嫁衣裳を着て、迎えの花轎に星羅は乗り込む。輿の外から、この婚礼はどこの誰だとか、花嫁の姿はどうであろうかと賑やかに話す人々の声が聞こえる。星羅は外を眺めることもせず、陸家に着くまでじっと郭蒼樹のことを思い出していた。

――陸明樹との縁談話を郭蒼樹に告げる。

「いい話だと思う」
「そうか」

 この縁談には文句の付けようがなかった。

「油断した」
「何を?」
「星雷に縁談話などそうそうに来ることがないと思ってた」
「あ、うん、わたしもそう思ってた」
「もう隆明様はいいのか」
「いいというか、どうにもならないしね」
「あと、3年あればよかったのに」
「3年?」
「教官になったら、婚礼の申し込みに行こうと思ってた」
「蒼樹……」
「仕方ない。これも縁だろう。幸せになれよ」
「ありがとう」
「ああ、そうだ。婚礼衣装は徐忠弘に頼むといい。ここを去るとき、もしも星雷が結婚するなら衣装を用意したいと言ってたから」
「そうか。文をかくよ。あの忠弘も、蒼樹も来てくれるかな」
「行くよ。星雷の女装は見たことがないからな」
「女装!?」
「はははっ」

 乾いた笑い声をたてて郭蒼樹はその場を去った。彼の広い背中を見ながら、まだ自分を想っていてくれたことを知る。しかし星羅には蒼樹を軍師の仲間、またはライバルとしてしか見ることができなかった。

「ごめん……」

 以前のように、瞬間的に気まずくなっても次の日には普段通りに戻るだろう。


 ぼんやり考えていると輿が止まり「花嫁の到着!」と大きな声と歓声が聞こえた。星羅は養父の彰浩に手を取ってもらい輿から降りる。頭からかぶっている赤い紅蓋頭のせいで、周囲はぼんやりとしか見えないが大勢の人が祝福してくれていることはわかる。
< 158 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop