華夏の煌き
「あなたの部下たちは面白い方たちばかりね」
「ははっ。うらやましいのさ」

 明樹の明るい夏のような笑顔は、星羅をリラックスさせる。軍師省ではいつも緊張と緊迫感があり星羅はヒリヒリした感覚で仕事をしている。それが嫌いではないが、明樹といるとホッとする。

「明日は、揚梅さんはお休みだからわたしが咖哩を作るわ」
「ああ、久しぶりに食べたいと思ってたんだ。咖哩はなんか癖になるよな」
「ええ、かあさまの作る咖哩には及ばないけど」
「十分美味いさ。あ、でも米じゃなくてあの長細くて薄っぺらい面包(パン)にしてくれ」
「いいわよ。西国では面包(パン)とは言わずに饢(ナン)と言うそうよ」

 若い二人は仲睦まじく肩を寄せ合って暮らしている。ただ、もうじき明樹は西国に隣接している辺境での勤務が決まっている。
 以前、離れていても平気だという話をしたが、実際に夫婦になってみると、離れて暮らすことはとても寂しい。今一緒に暮らしている間に、できるだけ星羅は明樹に妻として尽くしていたかった。
 並んで歩く二人の影をわざと重ねてみたりする。手をつないでも一体化しないのに影はぴったりと一人の人物になったように見える。星羅は影になって明樹に重なって一緒にいられたらと願うようになっていた。
 
75 懐妊
 夫の陸明樹が辺境の地に赴任してしばらくすると、星羅は体調不良に見舞われる。胸がムカムカし、吐き気はあるが実際に嘔吐することはない。軍師省で吐き気を抑えるために手ぬぐいを口に当てていると、郭蒼樹が町医者でいいから行けと言う。

「おじさま、じゃなくて、来月にでもお義父さまに診察してもらうから平気よ」
「医局長じゃなくても、すぐに診てもらったほうがいい」
「そう? ここのところ蒸し暑いからそのせいだと思うけど」
「自分で気づかないのか……。とにかく早く医者に行くといい。薬局でもいい」
「何? なんだか思わせぶりね」

 いつもはっきり言う彼がやけに言葉を濁す。

「俺は専門ではないからな」
「そんなに言うなら、すぐにでも行ってくる」
「ああ、そうしろ」

 星羅は休憩がてら、外に出る。軍師省は都の中心部にあるので、どんな店でもすぐに探すことができた。薬局も少し歩けばぶつかる。薬を買う人々で賑わっているが、星羅の空色の着物を見るとすぐに店員がやってきた。

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