華夏の煌き
「これはどうも軍師さま。何がお入り用ですか?」
「あ、あのちょっと胸がムカムカするので診察とその薬でももらおうかな」
「は、はあ。胸がムカムカと。こちらにどうぞ」

 じろじろと星羅の顔を見て、店員は納得したような表情をし、薬の処方箋を書いている薬師のまえに座らせた。

「こちらの方の診察をお願いします」
「よしよし。手首を出してみなさい」

 年配の人の良さそうな薬師がニコニコと星羅の脈を測る。星羅は陸慶明以外に診察をされるのは初めてだ。自分を抱き寄せるほど近くで診察する彼と違って、この年配の薬師は伸ばした手でそのまま診察する。薬師によって診察の仕方に違いがあるものだなと感想を持つ。
 手を離した薬師がもっと笑顔で話す。

「おめでたじゃなあ」
「おめでた? なにがおめでたいんです?」
「そりゃあ、子供ができたことだ」
「え? 子供?」
「そうじゃよ。気づかなかったのかの?」
「子供……」

 仲の良い星羅と明樹だったが、無邪気な子供同士のような夫婦だったのでまさか妊娠しているとは全く予想していなかった。

「身体を冷やさんことと、根を詰め過ぎんようにな。腹がもっと出てくるまであまり動いてはならんぞ」
「あの、馬にも乗ったらだめですか?」
「馬に乗る!? だめじゃだめじゃ。馬車でもよろしくない。ゆっくり歩くか輿に乗るんじゃな」

 妊婦のための薬草をもらって星羅は薬局を後にし、また軍師省に戻る。

「どうだった?」

 落ち着かない様子を郭蒼樹が見せる。

「子供ができていた」
「やはりそうか」
「よくわかったね」
「それはそうだろう。結婚してしばらくして体調不良と言えば定番の出来事ではないか」
「はあ、なるほど」
「しばらく休むか?」
「いや、別に今のところ平気だろう。薬師も仕事をするなとは言わなかったし」
「まあでもあまり無理はするな」
「ありがとう」

 郭蒼樹は星羅の妊娠がわかってから、軽るかろうが物を運ぶことをさせなかった。仕事のサポートも大きく星羅はいつか彼に恩返しをしなければと考えていた。

 厩舎に行き、馬の優々のところへ行く。

「優々、しばらくあなたに乗れないみたい」

 優々は言っていることがわかるのかブヒンと寂しそうに顔を振った。

「おーい。星雷さーん」

 馬の世話係の許仲典が大きな体を揺らしながら走ってきた。

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