華夏の煌き
 ふつふつと湧いてくる喜びと不安に高揚感がある。胸の上に手を置き、自身の鼓動を聞く。もう片方の手を腹の上に置く。自分の体の中に二つの命があるのだと思うと、改めて命の不思議さを実感するのだった。


76 陰謀の中心

 王妃の蘭加と王太子の側室、申陽菜から同時に医局長の陸慶明に依頼が舞い込む。蘭加からは王太子の曹隆明を、申陽菜からは第一公主の杏華を毒殺してほしいとのことだ。報酬はもちろん、今以上の陸家の繁栄だった。陸慶明にとって、その二つの話は大きな利益を生む話だ。能力主義の王朝とはいえ、後ろ盾の大きさは一族の繁栄につながる。
 若いころの慶明は、母のために薬を開発することが大事だった。彼にとって出世は、新薬を生み出すために必要な材料が手に入りやすくなるための手段であり目的ではなかった。おかげで慶明の母は正気を取り戻し、孫の明樹を可愛がり穏やかに天寿を全うした。その後、慶明は大きな目的もなく医局長として、医局の繁栄と王族の健康維持に努めている。

 王妃の蘭加と王太子の側室、申陽菜の話は断ることができない。話が上がった時点で受けるしかなく、断ることは死に直結する。頭を悩ませている慶明のもとに、星羅から懐妊の知らせを受ける。その知らせは慶明に一つの決断をさせるのだった。

 王妃の蘭加の部屋は、王族の中で、王よりも華美な贅沢品で占められている。豊かな髪は半分以上白いが何本もの金のかんざしがさしてあり、きらきらと光を受けて彼女の肌を明るく照らす。白い肌に頬は赤く染められ、額には蘭の花が描かれている。王太子妃の側室の申陽菜も、化粧と香りに拘っているが、蘭加もそれ以上に凝っている。むせかえるようなじゃ香のにおいは彼女の妖艶さを引き立たせている。毒殺を好む妃たちの共通した性格と雰囲気に、慶明はうつむいたまま苦笑する。

「面を上げよ。どうじゃ。首尾は」
「はっ。今、自然に事が進むよう手配しております」
「まあ、突然死だと明らかに疑いがかかるわなぁ。健康を害しておるわけではないからのぉ。じゃが時間がかかりすぎても困るぞ? 王の具合もあるのだから」
「大丈夫です。お任せください。三月ほどで事は収まります」
「三月か……。王はその間もつか?」
「もちろんです。王は養生していただけば3年は平気でしょう」
「3年は長いな。博行が王太子に即位したなら、王も隆明の後を追わせよ」
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