華夏の煌き
「はっ。御意にございます」
「では、下がってよい」

 王妃の診察は今や陰謀の報告の時間になっている。この後はまた申陽菜のもとに行き同じような話をするのだった。

 しばらくすると王太子の隆明は、咳き込むことが多くなる。時々発熱することもあり、朝議は隆明の代わりに、次男の博行が参内することがあった。
 隆明の体調を、間者探らせるとわずかだが吐血しているらしい。医局長の陸慶明に詳細を尋ねると、肺を弱らせたのち、食を細くさせるということだ。そして皆が口にするもので隆明に反応を起こさせ、死に至らしめる予定らしい。
 そこで王妃の蘭加は身内を集めた花見の宴を開く。蘭加の自慢の庭は一年中花が咲き誇り、香りが高い。王は体調不良で不参加だが、隆明は周茉莉を伴ってやってきた。

「母后、本日はお招きいただきありがとうございます」
「ほほほっ。楽になさって。今日はゆっくりしていっておくれ」

 隆明は弟の博行の隣に座る。兄弟仲は特に悪くはないので酒を酌み交わし雑談を始める。2人の席順を見て、蘭加はすぐに上座は博行のものになるとほくそ笑む。酒も存分にふるまわれ、珍しい料理も多く登場する。隆明が何か食べ物を口にするとき蘭加はこっそり盗み見る。色々口に入れているように見えるが一向に変化はなかった。

「おかしい……」

 宴も終わりに近づき、もう出される食べ物はない。

「王妃様どうかなさいましたか?」
「何がじゃ」

 侍女に尋ねられ、蘭加は喉を掻きむしっていることに気づく、同時に喉の奥がはれ上がり息が苦しくなってきた。

「う、く、苦し……」

「母上! 誰か、誰か、早く侍医を呼んでまいれ!」

 博行は慌てて蘭加のもとに駆け寄る。隆明も彼女のそばに寄り添い心配しながら様子をうかがっていると「早く王妃様を寝台に!」と医局長の陸慶明の声が聞こえた。
 蘭加は板に乗せられ運ばれる。動揺している博行も一緒に付き添っていった。隆明は「皆の者、ここを片付けて持ち場に戻るように」と指示してから、自分も蘭加のもとへ向かった。

 慶明は蘭加の診察をするので、皆下がって静かにしてほしいと頼む。蘭加は目を白黒させていて口の端から泡が出ていた。

「王妃様、何か言い残すことはありますか?」

 静かに尋ねる慶明に蘭加は目を見開き睨みつける。

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