華夏の煌き
「お、の、れえ、そなた、りゅう、めいではなく、あたくし、をっ!」

 慶明は少し口の端を上げる程度に笑んで何も答えない。蘭加は目いっぱい叫んでいるつもりだが、声はしわがれ喉がどんどんふさがっていくため、そばの慶明にしか聞こえなかった。

「大丈夫です。博行さまには健やかに過ごしていただけるよう尽力して参りますので」
「ぐっ、うううっぐ、くや、し――ぐはぁっ、うっ――」

 蘭加は呼吸ができず、顔は青黒くなっていった。身体中には発疹が出ている。やがてビクッと身体を震わせ息絶えた。
慶明は身体が硬くなってしまう前に目と口を閉じ、両頬を力を込めて押し穏やかな形相に変えておいた。もう一度脈を測り、絶命を確認してから寝台の外の博行と隆明に「ご臨終です!」と声を張り上げた。
 ばっと博行が「母上!」と叫び入ってきた。蘭加の身体にしがみつき悲しみに暮れている。隆明もその様子を悲痛な表情を見せる。
 慶明は「手の施しようがありませんでした」と深々と頭を下げ説明を始める。

「王妃様は、おそらく何かの食べ物で中毒を起こされたようです」
「今日口にしたものは、珍しいものが多かったが毒になるようなものはなかったはずだ」

 隆明に問われて慶明は恐縮した様子で答える。

「ええ、そうでしょう。毒見もおりますし。しかし体調や組み合わせなどで毒になってしまうこともございます」

 慶明は「申しわけございません」と額づく。

「わかった。下がってよい……」
「はい」

 これから国葬の準備のために忙しくなるだろうと、ちらりと蘭加の寝台に目をやり慶明は下がった。

 屋敷に戻っても気を抜かず、顔をしかめたまま使用人に茶を一杯入れて持ってくるようにと告げて部屋に入る。夜はもう更けていて妻の絹枝も、息子の貴晶も眠っているようだった。茶を運ばせ、一人きりになり一口茶を飲んで慶明はやっとひとここちつく。

「ふうっ。一つ片付いた……」

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