華夏の煌き
 星羅は温かさを保つように、さっき隆明に撫でられた腹の上に手を置く。

「星雷。まさか、その腹の子は……」

 郭蒼樹が慎重だが鋭い口調で訪ねる。

「ち、ちがうよ」
「誰が見てもおかしいだろう。妾なのか?」
「まさか!」
「最初は星雷だけが殿下を慕っていると思っていたが、ここ何年も見てきたが寵姫に見えてもおかしくない」
「そ、そんな。それは蒼樹の思い込みじゃないか。わたしはもう夫もいる身だし」
「結婚など契約にすぎない」

 郭蒼樹は、星羅と隆明の関係を只ならぬものと疑っている。今に始まったことではないのだろう。確信しているといった話振りだ。

「もう少し納得したいものだ。殿下と星雷のかかわり方は後宮でも怪しまれているのだぞ?」
「え?」

 全く予想していない事柄に星羅は唖然とする。

「側室の申陽菜さまが目ざといのだ。探りを入れられていることを知らなかったのか?」
「探り?」
「そうだ。殿下と一緒にくる供の者がいるだろう。あれは申陽菜さまの息がかかっているものだ」
「で、でも、わたしは何も……」
「知ってる。俺もいるのだから。だが、俺が逢引の協力者だと思われていることもあるのだ」

 郭家は軍師家系なので、星羅には伝わらない情報を色々得ているのだろう。郭蒼樹は冤罪だと言わんばかりに口惜しそうな表情だ。

「すまない。わたしのせいで嫌な思いをしてたんだな」
「いや、なんでもないならいい」

 何年も一緒に切磋琢磨してきた郭蒼樹はこれからも、いや、一生軍師として関わり続けるかもしれない。彼は十分に信頼に値し、誠実で、正義感がある。星羅は彼だけには打ち明けようと決心する。

「蒼樹、これから話すことを絶対に誰にも他言しないと約束してくれるか?」

 真剣な表情をする星羅に「もちろん」と郭蒼樹は頷く。

「殿下はわたしの――わたしの父なのだ」
「えっ?」
「しっ!」
「あ、すまない。あまりにも驚いて」
「ふふっ。蒼樹も驚くことがあるんだな」
「それは、ま、まあ」

 星羅は実の母と隆明のことをかいつまんで話す。

「そうだったのか……」
「わたしも、このことを知ったのは軍師見習いになってからなんだ」
「ああ、なるほど……」

 郭蒼樹は何年か前のことを思い出して反芻する。そして今現在の状況と繋がったらしく納得した。

「しかし、それはそれで大変な重要機密だな」
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