華夏の煌き
「そうらしいね。誰にも言わないでほしい」
「わかってる。聞いて後悔したくらいだ。まだ殿下の愛妾のほうがいいくらいだ」
「もう! やだな」
「冗談だ」
「でも、申陽菜さまには気をつけろ。朝廷でも、行事のときにも殿下を目で追うなよ」
「気を付けるよ」
「もうじき殿下は王になる。そうなると、ますます、いや、まあとにかく早く軍師にならねばな」

 郭蒼樹はこれ以上星羅にプレッシャーを与えないようにと話題を変える。

「ありがとう。親子の名乗りは上げられないけど、軍師としてお仕えできるよう頑張るよ」
「その意気だ」

 星羅は郭蒼樹との信頼関係がますます厚くなるのを感じていた。
  
78 臨月
 王妃、蘭加の後を追うように、王の曹孔景も崩御した。父である曹隆明ほどの思慕はないものの、星羅は自身の祖父であり華夏国の王の死を悼む。隆明は今どのような気持ちなのだろうか。王位継承の重責を感じているのか、それとも父の死を悲しんでいるのだろうか。こんな時に少しでも隆明のそばに行き、慰めになれたらと星羅は思う。

「そんな顔をしていては腹の子に悪いぞ」

 郭蒼樹は素っ気なくも優しい。

「そんな顔って……」
「殿下が、いやもうじき陛下か。心配なのか?」
「うん、これから今まで以上に大変だろうから」
「それは陛下自身百も承知だろう」
「だね」
「会いたいか?」
「う、うん、会いたいというか、会わせられたらと、思う」

 星羅は膨れてきた腹に目を落とす。郭蒼樹は、星羅の腹の子は隆明の孫になるのだなと頷いた。

「軍師になって陛下に会おうと思うとうまくいっても5年はかかるな」
「5年か。それはさすがに無理だろうし、急いでないよ。わたしが陛下にお会いするまでにその3倍もかかっているんだから」
「そうか」
「母にはいつ会えるかどうか……」
「俺も本来なら会える身分ではないが、家系が家系なもので陛下にお目にかかる機会がある。その時一緒にくるか?」
「え? 郭家の方たちと一緒に?」
「ああ、家族の振りでもしておけばよい」
「いいのかい?」
「いいさ。親父たちも俺のすることに口出しはしないし」
「そうなんだね。信頼されてるんだな」
「そうではない。うちは放任主義なのだ。かまってやって能力がなかったら時間の無駄になるということでな」

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