華夏の煌き
 王と王妃の部屋は、王太子宮のころと変わっていなかった。王妃となった桃華の体調は相変わらず優れず、かといって悪化もしていない。桃華はもう何年も健診で関わっているというのに、慶明によそよそしい。ほかの妃たちはすぐに打ち解け、良くも悪くも美容の相談をされる。桃華は、慶明だけでなく、王である曹隆明にもよそよそしい。王族には王族なりの何かがあるのかと思うが、頑なな桃華はいつもこわばった顔つきをしている。

「どうぞ力を抜いてください」
「はい……」

 そう言ってリラックスされたことはなかった。しょうがなく慶明は、気の流れがスムーズになり、心を安らかに保つ薬湯の処方を渡している。王妃の性格であって病んでいるわけではないので慶明にはやりようがなかった。とにかく身体の健康の維持に努めるだけだ。

 申陽菜の部屋だけ、引っ越し後に様変わりしている。調度品はすっかり新しいものに変えられており、内装は明るい。少々軽薄な雰囲気になっており、王族の部屋というより、裕福商人の屋敷のようだ。寝台などは、パステルカラーの薄衣で何層ものドレープを作らせ、むせるような香を焚き込めている。まるで娼妓の部屋のようだ。

「ねえ。陸殿。今度、晴菜が婿を取ることになりましたの」
「おめでとうございます」
「茉莉夫人の百合公主の婿取りは来年になるのだけど、その前に、ね」
「その前に、とおっしゃられても、こればかりは天の計らいですし」
「強壮剤でもなんでもよいから、何かないかしら?」

 申陽菜は、自分の娘を、周茉莉の娘よりも早く懐妊させたいのだ。

「で、百合公主には、ほら、わかるでしょ?」

 腹黒い彼女はさらに百合公主の懐妊を妨げる薬を盛れと言う。むせかえる香に、咳き込みながら慶明は申陽菜の衰えに気づく。側室に入ったころは、可憐で透明感のある美女であった。曹隆明も彼女の美しさをとても褒めていた。しかし、いつの間にか妬みが強くなり、蹴落とすことばかり考えているせいか表情はきつく、眉間の皴が深くなっている。華奢な身体が自慢のため、食事を制限しているが、老いた今、彼女は枯れ木のような印象になってきた。
 年相応にふっくらしてきた周茉莉を豚のようだとののしるが、申陽菜の容姿は今や痛々しい。

「とにかく頼むわよ」
「善処いたします」

 いつものように肌を潤す処方を渡し、慶明は下がった。

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