華夏の煌き
 気を使ってくれている郭蒼樹にありがたく思いながら星羅はふと空を見上げる。

「今日は遅くなったな」

 大きく輝く北極星を見ながら、星羅は朱家へを馬の優々を走らせた。


 星羅が立ち去った後、柳紅美は郭文立を伴って軍師省から出てきた。柳紅美は星羅のように男装することなく、軍師省の水色の着物を娘仕立てにして着ている。郭家の親戚とあって華美な装いはしていないが、髪にはかんざしを挿してある。
 郭文立は郭家らしい長身に、知性的ですっきりとした目鼻立ちを持っている。

「星雷さんはやはり兄貴が一目置くだけあるよな」

 のんきものの郭文立の言葉に柳紅美はイライラし始める。

「たまたまよ。親が西国人だからじゃないの。ほんと、胡椒臭い女」
「えー。そうかなあ」
「そうなの!」

 郭蒼樹を追いかけて柳紅美は軍師省に入ってきた。元々、柳紅美は女教師を目指していた。いづれは郭蒼樹に嫁ぐつもりだった。両親に話せば、まとめてくれる縁談だろう。
しかし郭蒼樹が軍師省に入ってから、朱星雷の話ばかりするようになった。軍師省の同窓ということでてっきり男だと思っていたが、女だった。

 郭蒼樹の様子を見れば、朱星雷に恋をしていることは一目瞭然だった。朱星雷が結婚し、人妻になっていても気持ちは変わっていないように見える。
 このままでは縁談の話を持ちだしても、郭蒼樹は何かと理由をつけ断ってくるだろう。今日も、星雷に恥をかかせてやろうかと思ったが失敗した。

「蒼兄もあんなにかばわなくても……」
「何か言った?」
「何も。あんたは蒼兄に顔は似てるけど中身はとんまよね」
「なっ! 軍師試験に受かってるんだぞ?」
「あたしもじゃない」
「そ、そうだな」
「まあ、まだまだこれからね」
「そうだな。良策を考えねばな」
「……」

 とんちんかんな郭文立の相手をするのはやめ、柳紅美は、星羅の失脚について策をめぐらせている。


85 西の駐屯地
 西国に隣接する駐屯地では、気候も温暖でからっと晴れる日が多く、飢饉の懸念が中央よりも薄い。都から、倹約と備蓄をいつも以上に心がけるべしと通達が来たが、表面的に命令を守るだけで危惧するものは少なかった。

 陸明樹の妻、星羅からの手紙には今回の冷夏は曹王朝最大の国難となるだろうと書かれてあった。珍しく不安な様子の手紙に、明樹は他の兵士に比べ状況を重く見ている。
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