華夏の煌き
 母を回復させるには、知識とともに経済力と地位が必要になってくる。金があれば貴重な薬草を調合することもでき、地位のおかげで遠方の珍しい素材を手に入れることができるのだ。母に効果的な薬ができれば、早馬を飛ばし飲ませに行っている。

 前回は貴重な龍の髭と、人の形をした西方の薬草、万土等胡等というものを組み合わせ煎じて飲ませた。効果は高く、うつろな目に光が戻り、子を亡くしたことと、慶明を認識した。母は慶明の医局での様子を聞きたがり、話すと顔をほころばせ「出世したのね」と慶明の頬を撫でた。
10年ぶりとも思える母との触れ合いはとても嬉しいものだった。もう青年であったがその日は母に甘えに甘え、一緒に眠ったが朝になると、また母は布切れの塊を二つ抱いていた。

 母のことは晶鈴にも話していない。晶鈴が両親を亡くし、母親の兄夫婦に大勢の子供たちと雑多に育ったことは知っている。そのことに比べれば、心の壊れた母でもいる自分はまだ良いのだろうかと思う。晶鈴と自分は孤独を知っているが違うものなのだろうか。

「難しい顔をしてるわね。これからお子も生まれて賑やかになるでしょうし、仕事も順調なのにね」
「あ、ああ、まあな」

 いつの間にか考え込んでいた慶明は、はっとして我に返る。咳ばらいをしながら「ちょっと今後のことで占ってもらえるか?」と空気を換えるように晶鈴に頼んだ。

「いいわよ。今後の、何?」
「うーん。これってことはないが」
「漠然とすると漠然とした答えが出てくるわよ?」
「それでいい。俺自身の今後ってことで」
「あら、そう? 珍しく適当な内容ね。じゃあ、観てみるわ」

 晶鈴は小袋を両手で優しく包み込むようにもんだ後、中から紫色の流雲石を一つとりだし台に置く。コトリ、コトリと5つ並べてじっと観る。

「どうだ?」
「そうね。何か新しいことがおこるわ」
「新しいこと? 子供か?」
「いえ。もっと元々あったことに変化がありそう」
「それは良いことか? 悪いことか?」
「おそらく良いことよ」
「ならばよいか」
「でも――」
「でも?」
「そのあと別離があるわ。悪いことではないけど」
「別離……」

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