華夏の煌き
 こってり化粧を施した女に尋ねると「さあ、あたしが作ってるんじゃないからわからないけど」と立ち上がって後ずさり始める。
 星羅と許仲典も、怪しい女の動きを見て立ち上がる。

「二人を取り押さえて!」

 女が厨房のほうに怒鳴ると、ガタイの良い男が数人やってきた。男たちは半裸で曲刀を手にしている。髪を束ねることなく無造作に伸ばしている。

「星羅さん! 逃げるだ!」

 数人の男めがけて許仲典は腰から剣を抜き、飛び込むように切りかかった。彼が男たちと戦っている間に逃げるチャンスはあったが、許仲典を置いて逃げることはできなかった。自身も剣を抜き応戦する。
 腕っぷしと勢いのいい許仲典が半数の男をなぎ倒し、星羅たちが優勢に見えた。

「あんたの夫が死んでもいいのっ?」

 女の叫ぶ声で、星羅の動きは一瞬止まり、男によって剣を叩き落された。

「あっ!」

 一瞬で形勢は逆転してしまう。星羅の喉に曲刀を当てられては、許仲典も剣を置くしかなかった。

「仲典さん、ごめん」
「いや、おらはいい……」

 縛り上げられた二人は女の指示で、食堂から奥の部屋に連れていかれた。細い廊下は石畳で砂埃をかぶっている。黄砂がひどく掃いても掃いても入ってくるのだろう。
 大人しく歩いている星羅の耳に男の呻く声が聞こえた。聞き間違えることのない明樹の声だ。星羅が気づいたことに気付いた女が「心配しなくていい。とにかく大人しくしてね」とにやりと笑う。

「会わせて」
「いいわよ」

 女は明樹のいる部屋へ星羅を連れていく。

「どうぞ」

 部屋には扉はなく布一枚で廊下と隔てられている。すぐにも逃げ出すことができそうな部屋の作りに疑問を持ちながら星羅は中に入る。

「あなた!」

 寝台にはやせ細った明樹が横たわっている。髪はまとめられておらず、半裸の身体に流れている。身体を縛られたまま星羅は寝台に駆け寄り、明樹に何度も声を掛ける。

「あなた、あなた」

 閉じていた目を開いたが明樹の視線が定まっていない。

「う、うう」
「しっかりして、星羅です!」
「せい、ら?」
「ええ!」
「それより粥を……」
「粥?」
「うう……」

 何もまともに答えてくれず、星羅のこともよくわかっていないような明樹の様子にまさかと女を睨みつける。

「怖いわ。そんな顔して。命に別状はないのよ?」
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