華夏の煌き
「さあ、これでいいでしょう」

 将軍は郭嘉益に「これからも我が国と貴国が親しくありますように」と敬礼した。郭嘉益も拱手して頭を下げる。

「お元気で」
「星羅をよろしくお願いいたします」

 京湖は将軍に連れられ、砂塵の中、西国に帰っていった。それに続いて、兵士たちや象軍も引き上げていく。郭嘉益は、華夏国の兵士に星羅と明樹の入った箱を運ぶように命令し、華夏国に戻った。
 兵士たちもこの一連の人質の交換を見ていた。目を覚ました星羅がどんなに嘆き悲しむかと思うと同情せずにいられない。誰もが眠りから覚めないほうが良いだろうと思うくらいだった。


 目を覚ました星羅は、身体も頭も重くここがどこか分からず、目だけで周囲を見る。見慣れた建築様式と落ち着いた色合いにここが『美麻那』でないと気づく。

「ここは?」

 どこだろうと思っていると、部屋に入ってきた許仲典が声をあげる。

「起きただか!」
「仲典さん?」

 起き上がろうとする星羅を許仲典はそっと押し戻し「まだ寝てるだよ」と寝具を掛ける。

「みんなを呼んでくるだ」

 許仲典が部屋を出てから、すぐに数人部屋になだれ込んできた。陸慶明と妻の絹枝と朱彰浩と兄の京樹だった。

「とうさまに兄さま。お義父たち……。かあさまは?」

 一番いるであろう朱京湖がいない。

「何がどうなって? 夫は? 明兄さまはどこ?」

『美麻那』で監禁されている間、もう薬は必要にないと麻薬の使用は止められていたが、暴れられては困るということで、食事を拒む星羅に身体を弛緩させる香を焚かれていた。力が入らず、明樹を救って逃げ出すことも叶わず、星羅は時間だけが過ぎていくことを感じていた。

 どこからどう説明すればよいのか分からず、皆口をつぐんでいた。特に朱彰浩と京樹は、立っているだけで精一杯というやつれぶりだ。
 許仲典がもう一人部屋に連れてきた。郭蒼樹だった。最初にいた4人は静かに外に出て入れ替わる。

「星雷、無事でよかった」
「蒼樹、なにがどうなってるんだ」
「順を追って説明しよう」

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