華夏の煌き
 冷静な落ち着いた声で郭蒼樹は話始める。まず『美麻那』は現在、西国の王位についているバダサンプ王が華夏国に隣接している関所近くに立てた店だ。『美麻那』は一軒ではなく、華夏国を取り囲むように、やはり国境沿いの関所付近に何軒もある。そこにやってくる華夏国民から、西国人である朱京湖の情報を得るためだ。
 華夏国民で西国の料理に詳しいものや、慣れているものがいれば知り合いや身内に西国人がいるかどうか聞き出す。麻薬と自白剤で情報はいくらでも引き出せる。
 陸明樹は、妻の星羅の両親が西国人であり、さらにはその西国人がバダサンプが求めるラージハニその人だと知られてしまう。明樹は兵士であり、妻は軍師であるため、華夏国の飢饉状況も西国に筒抜けだった。砂の中で金の粒を探し出すように、バダサンプは20年以上かけて京湖を見つけ出したのだ。

「で、かあさまは?」
「お前たち夫婦と交換で西国に帰った」
「そんな!?」
「明樹殿は、医局長が解毒を始めている。命に別状はないからすぐ回復するだろう」
「かあさま……」

 一目も会えずに西国に帰った、いや奪われた京湖のことを思うと胸が張り裂けそうだ。

「かあさまを、取り返す」

 2人も母を奪った西国が憎くてしょうがない。起きだそうとする星羅を、郭蒼樹はなだめ力を籠め寝かしつける。

「だめだ。軍師として軽装な行動をとってはいけない。西国は京湖殿を引き渡さねば、象軍をけしかけるつもりだったのだぞ」
「そんな!」

 華夏国の北部ではもう飢饉で飢えている人が出ている。今の国難の状況で、西国から戦を仕掛けられたら国の存続が危うくなるかもしれない。

「父が言うには京湖殿は立派だったそうだ。一言も嫌だと言わずに帰国する決断をしたそうだ」
「かあさま、かあさま」

 自分を救うために、京湖は帰ったのだと星羅は泣くことしかできなかった。

「とにかく今は身体を厭え。泣いている暇も恋しがっている暇もない」
「ううっ……」
「京湖殿は生きているんだから」
「かあさま……」

 放心状態で泣き明かしている星羅をみて、郭蒼樹は抱きしめたい衝動が湧いたが、ぐっと抑えて外に出た。郭蒼樹は星羅と一緒にこの国難を乗り越えなければと軍師としての決意を固めていた。

92 バダサンプ

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