華夏の煌き
 侍女たちの感嘆の声にラージハニは苦笑する。もう若い娘ではないのだ。美しい装いや豪華な髪飾りを嬉しくは思わなかった。髪と化粧を整えられたのち、また王宮に連れていかれる。

 王座ではバダサンプがふんぞり返ってラージハニ待っていた。若いころと変わらず、蛇のようにいやらしい目つきと、西国人にしては酷薄な薄い唇を歪めて笑っている。

「待ちかねたぞ。さあ王妃よ。こちらへ」

 ラージハニは王座の隣へ座らされる。

「さあ、わしは王妃を得た。皆で祝うがよい」

 大臣や兵士から歓声が上がると、バダサンプは立ち上がり、ラージハニの手を取った。

「どこへ?」

 嫌悪感で吐き気がするが、我慢して尋ねる。

「もちろん、寝室だ」
「今から祝宴では?」
「ああ、そうだ。ほかのものはわしらを祝う」
「では、わたくしたちもここで祝いを受けねばならないでしょう?」
「そんなことは後でいい。そんなことよりもそなたを早くわしのものにせねばな」

 いやらしく笑いバダサンプはラージハニの肩をがっちりと抱えるように、強引に引きずって寝室に向かった。ラージハニが無理やり連れていかれる姿に、誰もが見て見ぬふりをし、祝宴を続けた。

 しばらく引きずられるまま歩き、広い寝室へと連れていかれた。柔らかい寝具が敷き詰められた寝台に、ラージハニは投げ出されるように寝かされる。抵抗しても傷つけられるだけだろうことはわかっている。ラージハニは歯を食いしばってバダサンプにされるがままになっている。

「やっと手に入れた。これで望むものをすべて手に入れた。フッフッフフ」
「王になったなら、もっと若くて美しい女をいくらでも望めるはずでしょう?」
「ああ、そうだ。国中の女すべてわしのものにできる。だがわしはお前がいいのだ」
 
 バダサンプの這う指に嫌悪しながら、ここまでなぜ執着されなければならないのか疑問を口に出す。

「知りたいか?」
「ええ」
「わしの本当の身分はもっとも最下層の不可触民なのだ」
「え!?」
「驚いたか? 一番下どころか、人としても扱われないわしが今や国の王なのだ」
「なぜ……」
「顔が、大臣の息子と顔が似てたのさ」

 バダサンプは当時ラージハニの父と政敵であった大臣の跡取り息子と入れ替わっていたのだ。

「お前をやっと手に入れた」

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