華夏の煌き
「く、な、なんだ。うっ、ぐ、ひゅっ、ぶっ」

 目をむき、口から泡を吐き出した。顔は青くなっり赤くなったり変化が激しい。

「み、水、を」

 喉が膨れ上がっているようで、呼吸もままならないバダサンプは、喉を掻きむしり寝台に臥せる。しばらくぴくぴくと手足の指が痙攣を起こしていたがそれも消えた。
 ラージハニはバダサンプのまだ生暖かい手首に指を置き脈を診る。もう脈を打つ音は聞こえなかった。

 彼女は、華夏国を出る前に医局長、陸慶明から毒を調合してもらっていた。それも少量ですぐ効果のあるものではなく、多量に服用することで効果があるものをだ。
 バダサンプが執拗な愛撫を施すだろうとラージハニは予想して、その毒を身体中に塗っておいた。


 寝台の近くにある水瓶を見つけ、ラージハニは頭から水をかぶる。

「もっと洗いたいわ」

 ふらふらと寝室から出たところを、兵士に取り押さえられた。
 

93 父との別れ
 虚ろな日々を余儀なくされていた陸明樹は、父である医局長、陸慶明の処置によって徐々に力を回復していった。自分の家族がわかり、身体にも力が入るようになり起き上がることが出来るようになってから、中央に帰ってきていることを知る。
 目を覚まして、天井を眺めている明樹に気づき、隣で休んでいた星羅は身体を起こす。

「あなた、気分は?」
「うん、悪くない」

 明樹は天井を見つめたまま答える。星羅は寝台から降りて、息子の徳樹が眠っている籠を覗きに行った。彼はまだすやすやと眠りこけている。
 ぼんやりと星羅は、西国に帰ってしまった母、朱京湖を想い、帰ってきた夫、明樹を感じる。明樹を取り戻せた喜びと、京湖を失った悲しみが複雑にブレンドされている。

「朝げの支度が出来ました」

 陸家の下女の声に星羅はハッと現実に心を戻し「今行きます」と返した。明樹の具合が安定するまで、星羅と息子の徳樹も、陸慶明の屋敷に住んでいる。広い屋敷では親子三人が加わっても問題なかった。家のことも、使用人が何人もいるので星羅は客のように何もしなくてよかった。
 
 明樹の容態が安定すると、星羅の養父、朱彰浩が西国に戻ると言い出した。京湖がいない華夏国に、彰浩がいる理由がないのだ。兄の京樹は華夏国に残る。彼には太極府で星を見る重要な仕事があるからだった。

「本当に父様行ってしまうの?」
「すまない」
< 204 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop