華夏の煌き
「小桜か。いつも私の粥を?」
「ええ、奥様から昼の粥を任されています」
「ふうん」
「あの、こちらでよろしいでしょうか?」

 小桜は寝台の隣の机に目をやる。明樹が頷くと小桜はコトリと粥の入った白い碗とレンゲを置く。

「味見もするのか?」
「はい、恐れながら、粥の具合をみさせてもらってます。今日は奥様も若奥様もいらっしゃらないので、あたしが運んできました」
「いつもありがとう。うまい粥だ」
「ありがとうございます!」

 明樹に褒められて小桜は頬を染める。彼女の袖から出ている細い手首を見る。手も小さく華奢だ。肌の色も華夏人にしては色黒で、彫が深い。南西の出身なのだろうか。明樹は小桜を見ているうちに、なんだか頭がぼんやりし始める。そして着物の袖からそっと瓶をとりだし小桜に見せる。

「すまないが、この瓶の中身を一匙粥に入れてもらえないか」
「この中身をですか?」
「ああ……」

 小桜は言われるまま、レンゲにそっと瓶を傾け中身を出す。催淫剤はとろっとしていて飴色だった。不思議なものをみるように小桜はそのとろりとした液体をそっと椀の中に入れてかき混ぜる。

「味も見てほしい」
「え、あ、あのでは、匙をもってまいります」
「よいよい」
「で、でも」
「気にするな。私は兵士だから何人もの兵士たちと同じ杯で酒を回し飲みすることもある」
「は、はあ。では、少しだけ……」
「遠慮するな。ちゃんと一匙味見してほしいのだ」

 だんだん高圧的になってきた明樹に、小桜は恐る恐る粥に口をつける。作った時よりもほんのり優しい甘さが口に広がった。

「あの、美味しくなってます。大丈夫です」
「そうか。ついでに食べさてくれるか? 少し疲れてきた」

 明樹は寝台に足を上げ、上体を持たれかけさせた。

「では、失礼して」

 小桜は椀を持ち、そっとレンゲで粥を救い明樹の口に運ぶ。椀の中身が半分ほど減ったころ、まず小桜に異変が生じた。

「どうした?」
「あ、いえ、別に……」

 息が荒くなり、顔が火照っている。明樹自身にもその異変が現れ始める。目が潤み、そわそわし始める小桜の手から椀をとり、明樹がレンゲで粥をすくう。
「ほら、そなたも食べろ」
「え、あ、は、はあ」

 言われるまま小桜は粥を食べる。椀が空っぽになったころ小桜は明樹に組み敷かれていた。

「私が嫌ではあるまい?」
< 207 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop