華夏の煌き
「め、明樹さ、ま」
「悪いようにはせぬ」
「ああ……」

 明樹は西国の『美麻那』を思い出す。何もかも忘れ、二人は快楽だけをむさぼり始める。

 
95 地方の飢饉

 中央から遠く離れた地方では、県令の人格によって治世の差が大きく出ている。安定した情勢の時には誰しも、暗部が見えなかったが、飢饉に見舞われると本性が出てきてしまっていた。
 北東部の辺境では、強欲な県令が食料を買い占め、更に備蓄されていた救済用の穀物もすべて役人たちのものにしてしまう。貧しい老人から飢えはじめ、やがて幼い子供たちが飢え死にしたときに暴動は起こった。

 都から兵士たちと共に暴動を鎮圧するために、星羅と郭蒼樹も派遣される。また許仲典と柳紅美もついてきている。許仲典は、前回の西国への供で、星羅を守れなかったことを悔いているのだ。柳紅美のほうは、星羅と郭蒼樹が間違いを犯さないように見張るためだ。密通する二人でないと分かっていても、親密になっていくのを阻むつもりだ。

「すぐに治まってよかった」
「本当ね。でもまだこれは序の口かもしれないわね」
「うむ」

 都からの救援物資を運び、県令のもとへ行く前に飢えた民に配給する。少しでも腹が満たされた民たちはそれ以上、暴力に訴えることがなかった。民が落ち着いた後、郭蒼樹は県令のもとへ兵士とともに赴き勅令を言い渡す。

「国難の際に、私欲にはしった県令を極刑に処す」

 やせ細った民たちが見守る中、速やかに刑は執行された。これからますます飢饉が厳しくなる前の見せしめでもある。県令は勅令を言い渡された後、泣いて命乞いをしたが蒼樹は顔色一つ変えず「勅令である」と静かに告げた。

 飢饉でなければもっと時間をかけた審議がなされ、刑の執行もすぐには行われなかっただろう。県令を長く生かせば、それだけ食料は減るのでこのような早い執行となる。例え、陥れられたとか、真っ当な言い分があっても無理だったろう。
 転がった県令の首は、ぷっくり膨らんでいて毬のように転がる。饅頭でもくっつけたような肥えた顔を見ると、どんな言葉があっても無駄だった。

 新しい県令はすでに配属済みだった。処刑を間近にみた新しい県令は、同じ過ちは犯すことはないだろう。
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