華夏の煌き
 馬を走らせ、陸家の屋敷についた星羅は、門に白い大きな布が垂れ下がっているのを目にして息をのんだ。

「だ、誰が? 一体」

 門番に尋ねようかと思ったがやめて、馬を預け急ぎ屋敷内に入る。以前も同じ光景をここで目にしている。春衣の葬儀の時だった。

「あ、あなた、どこ」

 激しく胸を打ち始めた鼓動を抑え、屋敷の中心である広間に向かう。使用人が何人かいるはずだが、見当たらず静かだった。静けさの中に自分の心臓の音だけが響く気がする。白い布が多く垂れ下がった広間に恐る恐る顔を出す。そこには陸慶明とその妻、絹枝、次男である貴晶がいる。貴晶の隣には大人しく座っている徳樹が見えた。4人とも白い着物を着て俯き、押し黙っている。
 嫌な予感がする星羅は声を掛けずに、そっと中の様子をうかがう。大きな塗りの位牌の文字が目に入る。

『故男 陸明樹』

「あ、ああ、あっ、あ、あな、た……」

 力が抜け、よろよろと入ってきた星羅に徳樹が気づき声をあげる。

「かあー」

 その声で、皆顔を上げ、そしてまた俯いた。放心していた絹枝がまたすすり泣きを始める。陸慶明は絹枝の背中を撫でいたわったのち「星羅……」と膝まづく星羅の身体を起こした。

「どう、して? 夫に一体何が? もう、もう体は回復したと」

 明樹の死が全く理解できない星羅にとって、悲しみよりも疑問しかない。星羅は立ち上がって棺を覗く。そこには青白くなった明樹が白い花の中で眠っていた。

「あなた、起きて? ねえ、どうして? やっとやっと帰ってきて、これから一緒にいられると思ったのに」

 冷たい頬を撫で、話しかけても明樹は沈黙を守る。もう微笑むこともない。

「どうして、どうして、どうして」

 震えながら涙声で何度も明樹に呼び掛ける星羅に、慶明は何も言えなかった。絹枝もますます嗚咽がひどくなり咳き込む。
「かあさま、しっかり」

 貴晶は絹枝を支えるように手を握っている。徳樹は泣いている星羅を不思議そうに見ていたが、やがて悲しくなったらしく声をあげて泣き始めた。

「徳樹、徳樹」

 泣く我が子を抱き上げ、星羅は呆然と明樹を見続ける。徳樹が泣き疲れ、星羅の腕の中で眠りについたことに気付き慶明は
「さあ、徳樹をこちらへ」と抱き上げ乳母に寝台へを運ばせた。

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