華夏の煌き
 後宮でも食事は質素なものとなり妃たちも慎ましく生活している。王妃の桃華は毎年ある両親からの手紙が届かないことで一層、不安に見舞われている。後宮入りすれば、自身は外に出ることは叶わなくとも、家族からの面会には応じることが出来る。最初の数年は両親と、本来、妃になるはずだった姉が面会に来ていたが、入れ替わったことがばれるのではないかといつも不安な桃華は、すぐに部屋に引っ込んだ。年老いてきた両親も、そのうち都へ上がることが疲れるのか、手紙だけが届くようになった。

「この飢饉ですもの。もしや、父上と母上の身になにか……」

 桃華の実家、呂家は地方長官であるが役人なので食物の備蓄には農家と比べて乏しい。役人の権威など今は、飯一碗より低いに違いない。家族のことを憂いていると、すっと宮女がそばに寄り耳打ちを始める。

「お妃さま、ご家族が面会にいらしております」
「え? 家族? 父上? 母上?」

 臥せっていた身体を起こし、宮女に尋ねると、彼女は首を振り「妹君の李華さまでございます」と頭を下げた。

「李華……?」

 どうして彼女だけがやってくるのだろうかと、首をかしげたが実家の様子が知りたいので通すように宮女に告げると、入れ違いにすぐさま李華が入ってきた。

「姉上!」
「あ、ああ、李華、久しぶりね」

 李華は大げさに桃華を姉と呼び再会を喜ぶ声をあげた。桃華は姉を見てぎょっとした。もともとほっそりしていた姉だが、頬がこけ、目がくぼみぎょろりと白目を大きく見せている。髪も本来の艶ではなく、油でぎらぎらさせているようだ。飢饉の影響が出ているのだと、桃華は胸を痛め、姉を抱きしめる。宮女にしばらく下がっているように告げ、人払いをさせる。

「李華、父上と母上は? あなただけなの? 夫君は?」

 矢継ぎ早に桃華は李華に質問するが、彼女はふうっと息を吐くと「元に戻りましょう」と言葉を発した。

「ええ? 元にって? 一体……」

 何を言いたいのか全く分からず、桃華は何度か瞬きをして姉を見つめた。

「元々私が桃華でしょ? 交換をやめましょうと言っているの」
「どうして、今頃……? 父上と母上は? 夫君は?」

 再度同じことを尋ねると、姉は億劫そうに口を開く。

「とっくに死んだわよ」
「ええっ!? 」

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